ノリントンは、小編成の両翼配置、かつピリオド奏法に関しては先駆者的な存在である。
その効果がどれほど凄いか、いくつか挙げてみよう。例えば《田園》第1楽章中間部の転調部分、あるいは《イタリア》終楽章、ブル3冒頭、ブラ1終楽章などは、両翼配置でなければちっとも面白くないだろう。最近ではピリオド奏法を採用していても通常配置という人もおり、なんと勿体ないことを、と思っている。
中でも先に挙げた特長を活かせられるのが《幻想交響曲》だ。最近ではグザヴィエ・ロト盤に注目が集まっているが、ハープすら両翼に振り分けるというアイデアは、既にノリントンが先鞭をつけていたのである。それで、小編成の両翼配置によって、ヴァイオリンの揺れ動くさまが見事に聴かれる。それはあたかも恋に破れた青年芸術家の心理状態そのもののようである。勢いに任せるのではなく、各楽器を丁寧に鳴らしつつ、曲本来が持っている狂気を炙り出していくのだ。
その他の曲でも聴きどころ満載で、例えば《ニュルンベルクのマイスタージンガー》など対位法が恐ろしい程分解され再構築される。速いテンポながら、音の一つ一つが手に取るように分かる。
このように、どの曲も驚きと発見に満ち溢れている。これは大推薦である。