サマンサ・サングといえばビージーズの全面サポートで大ヒットした「愛のエモーション」のワン&オンリーだろうと侮っていったが、それは大きな間違いだった。このアルバムはシングルヒットにあやかって半ばやっつけ仕事で作られたB救品ではなかった。
エリック・カルメンの「チェンジ・オブ・ハート」以外の邦題は、優しい日本語でラッピングされていて邦人リスナーに寄り添っているのだが、一方で有名カヴァー曲などが邦題に隠されてわかり難いこともある。例えば、「私は行かない」なんて、ブルース・ロバーツ自身も歌っている「I Don’t Wanna Go」の直訳なのだが、サンプルを聴くまで全く気がつかなかった。結論から言えば、個人的にはいい意味のサプライズだったし、原曲の持つ甘酸っぱい雰囲気を損なうことなく歌い上げていたので、アルバム購入の背中を押してくれる1曲になったことは確かだ。
他にも佳曲ばかりを取り上げていて、内容も充実しているが、ビージーズのカヴァー曲「愛のシャレード」は本家のオリジナル版「Charade」に軍配を上げたい。好みの問題だが、アルバム『ミスター・ナチュラル』の冒頭で魅せた3兄弟のウィスパーなコーラス&ハーモニーは絶品で、まるで深い夜の静寂に仄かに揺らぐ港の灯を想わせる完璧な”おやすみソング”の完成形だからだ。
最後に、この物価高の時代に税込み2,200円というリーズナブルな価格設定には感謝しかない。欲しいものリストにも入れていなかったが、レーベルのことも考えると無理をしてでも早めに買っておく必要がある。