この演奏でグルダが弾いているピアノは「ベーゼンドルファーだと言われていたが実はスタインウェイだったそうです」ともっともらしいことを言う方がいましたが、これのどこがスタインウェイなのでしょう?どこからどう聴いてもベーゼンドルファーの音ではないですか?いい加減なことを言う人のいい加減な説を鵜吞みにせず自分の耳で判断すれば簡単にわかる話です。
第3番の第1楽章の最初のピアノの登場の中音域のアルペジオを聴いただけでも、フォルテピアノから進化した木質系のベーゼンドルファーらしい音が聴こえます。もちろん全曲を通じてベーゼンドルファーの魅力が満載の素晴らしい演奏です。やや金属質ながら全音域に亘って均一な音のスタインウェイも上品で魅力的ですが、ベートーヴェンとかはやはりベーゼンドルファーの音がいいな。(スタインウェイで弾いたベートーヴェンのピアノ協奏曲全集はポリーニ・ツィメルマン・内田光子などで聴けます。)
録音で聴けるベーゼンドルファー弾きの代表はバックハウス、ハンス・リヒター=ハーザー、そしてグルダの3人です。私は今まで模範的なバックハウスのピアノ協奏曲全集を愛聴していて、このグルダの演奏はピアノもオーケストラも力みかえった演奏であまり好きになれないでいました。グルダはせっかくのベーゼンドルファーを力任せに叩きつけるようなタッチで、もっとリヒター=ハーザーのようにベーゼンドルファーをきれいに鳴らして響かせるように弾けばいいのにと思っていました。(ちなみにベーゼンドルファーを最もベーゼンドルファーらしくきれいな音を響かせるのはリヒター=ハーザーです。もちろんバックハウスも大好きです。)
しかし今回改めて聞き直して、この演奏は従来の演奏よりも尖ったベートーヴェンを、威容をもってそびえ立つベートーヴェンの尖った姿を提示したいのだ(グルダもシュタインも)と思えるようになりました。それはそれでベートーヴェン演奏の一つの立派な姿です。それとやはりウィーン・フィルの音と響き!まさにベートーヴェンにふさわしい。録音のゾフィーエン・ザールでのデッカ録音にしてはやや硬めの音ですが、良い録音には変わりがなく、魅力満載のSACDです。 皆さんにお勧めします。