コルネリア・ヴァシレのヴァイオリンで、ニコロ・パガニーニの作品を聴く。演目はハインツ・ヴァルベルクの指揮する北ドイツ放送交響楽団の伴奏による協奏曲No.2と、カプリース集からのセレクション(No.1,4,5,9,11,13&24)。前者は1969年11月20日から翌日にかけて、後者は1970年1月21日という録音の日付がある。どちらもハンブルクの北ドイツ放送の第10スタジオで収録されたもので、スタジオ・ライヴと書かれているが、演奏終了後の拍手はない。協奏曲ではわずかにオーケストラと息の合っていないところを認めるが、カプリースの抜粋共々、大きな瑕疵はない。
ヴァシレは、ドイツ・グラモフォンから50年以上前にデビュー・レコードをリリースしたことがあり、国内盤が出た時には「コルネリア・ヴァジーレ」と呼ばれ「ヴァイオリンのアルゲリッチ」というキャッチフレーズがつけられていた。このデビュー・レコードではウジェーヌ・イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタNo.2とパガニーニのカプリースの抜粋(No.5,7,9,11,13,15,19,22,23&24)を採りあげていた。このデビュー録音のカプリース集は、パガニーニ直系の弟子という触れ込みで現れたジュゼッペ・ガセッタという老人の若かりし頃の録音として、ノイズ加工されて21世紀初頭にリリースされていたことがある。捏造の発覚でヴァシレに脚光が当たるかと思いきや、ガセッタ翁は真実を語らぬまま2008年に急死し、2年後にはヴァシレもミュンヘンで亡くなってしまったことで、再評価の波を作ることが出来なかったようだ。ヴァシレは1970年代に故国ルーマニアのエレクトレコードで、パガニーニのカプリースの全曲を録音してリリースしており、こちらは2001年に一度CD化もされたそうだが、早々に廃盤になっている。
ヴァシレの演奏は、賛辞を送ったイヴリー・ギトリスの芸風とはまるで違う。技巧を誇示して拍手を貰いたいような俗物根性の演奏ではなく、ひたすら鍛錬の成果があるかどうかを自問自答しているような演奏である。興奮させたり、爽快な気分にさせるような演奏ではないのだが、そのひたむきさに、ただただ聴き入ってしまう。
この録音が呼び水となって、エレクトレコードの録音が、ドイツ・グラモフォンの録音と共に、再度リリースされることを望む。他の作曲家の解釈も聴いてみたい。