初期の曲では癖はそれほど強く出ていないが、第4番や第5番では、ルバートを多用したり、弱音を目立たせて粘ったりで、まるでショパンを弾くような演奏スタイルになっている。往年の巨匠風ともいえ、今風の推進力や切れ味の良さは感じられない。オーケストラはニュートラルなスタイルで、残響の少ないデッドな録音のため細かいところまでよく聞こえるのは好ましい。指揮は無難で可もなく不可もないレベル。ピアノの音はきれいで鮮明に録られている。名盤がひしめく中にあって、あえてこの全集を選ぶ理由があるとすれば、昔のグランドスタイルによる大変にロマンティックな演奏を現代の最新録音で聞けるという点だろう。三重協奏曲ではピアニストは大人しくて個性的とはいえない。ピアノパートが控えめに作曲されているせいかもしれないが、ここでも遠慮せず、自分流の演奏を繰り広げた方が面白かっただろうと思う。