圧巻の名演の数々が見事に揃い踏みした極上のマーラー交響曲全集です。ベルリン・フィルとしては、以前にハイティンクがPhilipsで全集録音を進めましたが途中で頓挫してしまったので、これが今のベルリン・フィルが満を持して世に問うた初の全集となりました。このセットはベルリン・フィル自主レーベルの企画とあって、各曲ごとに指揮者が違い(7、8番だけは共にラトルが登板していますが)、総勢8人の指揮者での全集となっている点がポイント。レコード会社の企画であれば基本的に自社と契約している指揮者しか使えないので、贅沢なセットです(それでもDGの指揮者が多いですが、その中にハイティンクが9番で登板しています)。演奏はすべてライヴで、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールでもお馴染みのものですが、CD化するにあたってオーディエンスノイズや拍手などはカットされ、CD用にリマスタリングもされたのか、DCHでの映像よりも音質はクリアでダイナミクスの幅も広がり、より素晴らしい音で楽しめます。演奏については一つ一つ書くときりがないので諦めますが、上記の通り、どれも圧巻の名演奏が揃い踏みしていて、聴き進めるのが本当に楽しくて仕方がありませんでした。購入してからもう3週聴きましたが、未だにその楽しさは変わりません。1曲ごとに指揮者が違うことがまた楽しさをさらに倍増してくれていると感じます。個人的に私が特に感銘を受けたものはネルソンスとの2番、ペトレンコとの6番、ラトルとの8番ですが(これらは本当に圧倒的!)、例えばハーディングとの1番は音楽のみずみずしい若々しさと切れ味の良さは印象的でしたし、ドゥダメルとの3番はオケの見事さと音楽の温かさ、ネゼ=セガンとの4番は音楽の幸福感とその裏にある闇との対比が印象的でした。ラトルとの7番では巧みなオーケストレーションと楽曲構成がこれほどまでに分かりやすく表現できるものかと唖然としましたし、キャリアの豊富なハイティンクとアバドからは演奏の隅々から感じられる安心感と心からの感動を享受しました。値段は結構お高いですが、でもベルリン・フィルのコンサートを1回聴きに行ったと思えば安いものかもしれません(このセットもすべてライヴですから)。解説の日本語訳もとても充実していて、正に読み応え充分です。全編に渡り本当に素晴らしいこのセットを多くの方々と共有したいと思います。