衝撃的なCDを発見した。廃盤になっているが、奇跡的にHMVの中古(シュリンク未開封であり、新品同様だった。)で手に入った。シェーンベルクやヴェーベルンと親交があった作曲家ルネ・レイボヴィッツ指揮による数々の作品集(13枚組)である。中でもベートーヴェンの交響曲全集は必聴。
レイボヴィッツは、あのピエール・ブーレーズ氏の師匠でもあったが、セリーの解釈をめぐり、ブーレーズ氏と対立。ブーレーズ氏は捨て台詞を吐いて決別した。しかし、レイボヴィッツの指揮は、極めて秀逸であり、解析的ながらチャレンジングで、アクロバットで、前衛的である。現代のロトやクルレンティスも顔負けのアプローチである。また、音源の1960年代当時では、巨匠ハンス・ロスバウトの指揮が顕著であるが、ロスバウトは、モノラルばかりで音質が悪い。レイボヴィッツの音の良さは、ロスバウトと優れた差別化を図っている。
何といっても、解析的でそれでいて推進力がある。一切の感情を排して、テンポよく淡々と精密さを追求する私好みの表現である。そして、1960年代とは思えない現代的である。音楽は、感情表現ではなく数学なのである。
まるで、フランクミューラーの時計のように精巧さと斬新な美的センスにあふれている。その時計は、何時間でも眺めることができる。
特に面白いのが、レイボヴィッツ編曲のムソルグスキーの「はげ山の一夜」。原曲を遥かに超えるスリリングで劇的な表現。シェーンベルクやベルクのような妙技も垣間見える。オッフェンバック「天国と地獄」やビゼー「カルメン」、熊蜂の飛行、こうもり序曲などお馴染みの曲、名作も現代的アプローチで登場する。シベリウスは嫌いだったようで、全く登場しない。そして、ベートーヴェンの交響曲全集は、1960年代とは思えない現代的なアプローチ。必聴である。
このCDは、もっと聴かれるべきである。レイボヴィッツの知名度が低いのが理解できない。きっと、現代音楽への嫌悪感からきているのだろう。ともあれ、当分の間楽しめそうである。良い収穫だ。