ケリ・ヒルソンにニーヨ、ショーン・ギャレットといったソングライター出身のR&Bスターが登場してくる流れも一段落ついたようだが、そんな風潮とは無関係にシーンの表裏を行き来しながら、自由に創造性を発揮しているのがテリウス“ザ・ドリーム”ナッシュである。言うまでもなく、リアーナ“Umbrella”(2007年)に代表される独特のメロディーセンスによって、名だたる大物アーティストにビッグ・ヒットを与えまくっている彼だが、ファスト・ブレイクから2年を経ても、そのアイデア豊かなソングライティング/プロデューシングは新鮮さを失っていない。それでいて、どの仕事にもしっかりと〈ドリームらしさ〉が刻印されているのだから、これはもう恐れ入るばかりだ。今回はすでに本国でヒット済みのセカンド・アルバム『Love v/s Money』が日本盤化されたのを機に、彼の膨大なワークスをひと通りまとめておく。ディア・ジェーンやルーシー・ウォルシュなど、まだシングル単位でしか出ていないモノもあるが、大雑把なキャリアの推移や成り上がりの経緯は確認できるはずだ。
別掲の膨大な作品群だけを見ても、単なるヒットメイカーの一言で片付けられないドリームのイノヴェイターぶりはシンプルに伝わると思うが、新作『Love v/s Money』や肝煎りのエレクトリック・レッド作品などではプリンスからの影響や往年のアトランタ・サウンド~ダーティー・サウスへの再接近がより顕著になってきていたり、その作風は突飛なように思えても過去の音楽からの遺産を着実に継承したものでもあるのだ。そういう意味で注目すべきなのは、新作中の“Kelly's 12 Play”だろうか。これは曲名通りにR氏の『12 Play』を聴きながらその中身に合わせてメイク・ラヴに勤しむ様子を描いたアホな曲で、基本的に自身の作品ではナスティーな内容ばかりを歌うドリームの真骨頂とも言える仕上がりなのだが、同曲のアウトロ部分では〈BGMを『12 Play』からドリームの『Love/Hate』に変える〉と語っているのだ。このオチから、次の〈King Of R&B〉はオレなんだと言わんばかりの強烈な自信を嗅ぎ取ることは難しくないだろう。そんな自信も、この後に続々と控える大仕事──マライア・キャリーやリアーナ、キャシー、クリス・ブラウンといった面々の新作を思えば当然だろうし、引く手数多の活躍ぶりと打率の高さは実際に往時のケリーをも凌ぐものだ。
なお、PV撮影で出会ったヴィデオ・ヴィクセンとの浮気をきっかけにニヴェアと離婚した彼は、この5月にクリスティーナ・ミリアンと婚約したばかり(彼女の復帰作もレディオ・キラーから出るようだ)。女性問題もR・ケリーを後継しないよう……なんてのは余計なお世話だろうけどね。
▼ガイドで掲載した以外のドリーム・ワークスを一部紹介。
ラヒームの98年作『Tight 4 Life』(Tight 2 Def)