ボーダーシャツにキャスケット、〈ジーン・セバーグ・カット〉がもてはやされていた10数年前……それらと並ぶ〈渋谷系〉のキーワードとして重宝されていた〈フレンチ・ポップス〉。そのもっともわかりやすいイメージとして市民権を得ていたのが〈ウィスパー・ヴォイス〉だ。日本におけるクレモンティーヌ人気などもそうした背景に支えられたもので、当時はたくさんの日本企画盤もリリースされていた。それでは最近はどうかというと……ちゃんといるんです、ウィスパー系。ロリータ・テイストのシンガーこそあまり見かけないものの、旬のサウンドと同居しながら、それらは確実に息づいているのだ。まずはエールやM83とも交流のあるリサ・パピヌー。ニュー・アルバム『Night Moves』はトリップホップ以降を感じさせるトラックの延長線上にヴォーカル・ラインを配置、声質自体をサウンドとして響かせる魅惑の一枚だ。またフォークトロニカ・ユニット、ヴェローヌのファースト・アルバム『Retour Au Zoo』にも、複数のウィスパー・シンガーが同様のスタンスで参加。アブストラクトなサウンドの中で、まるで彼女たちの声そのものが妄想と現実世界の橋渡し役として機能しているようでもある。思えば、これらのウィスパーちゃんたちはフランスらしい官能性の発露であり、人肌の温もりをもイメージさせるのだ。
ヴェローヌの2005年作『Retour Au Zoo』(Martingale/Productions Speciales)