89年に故ロブ・ミッチェルとスティーヴ・ベケットが立ち上げたレーベル。大御所にして、まだまだ先鋭でありつづけるワープの今を徹底分析!
レーベルのあらまし
89年、シェフィールドのレコード店から故ロブ・ミッチェルとスティーヴ・ベケットが立ち上げたレーベル、ワープ。ちょうどハウス・ブームが到来した時期にスタートさせたこのレーベル初期ヒット作が、LFOのデビュー・シングルである“LFO”だ。そしてブリープ・テクノ/ハウスの金字塔ともいえるアルバム『Frequencies』がアメリカでライセンスされるなど、LFOと共にワープの名も一躍世界に浸透しはじめた。
それからわずか数年後、現在のレーベル・カラーの基盤であり、まるで2000年代における電子音楽の潮流を予期したかのような〈Artificial Intelligence〉シリーズがスタートする。同シリーズは一時の快楽を貪るダンス・オリエンテッドなエレクトロニック・ミュージックとは異なり、ホーム・リスニングにも十二分に対応しうる高い音楽性と知性を感じさせてくれた。その代表作が、ダイス・マン(リチャードD・ジェイムス)、オウテカ、オーブのアレックス・パターソンらの楽曲を収録したコンピレーション『Artificial Intelligence』だった。さらに同シリーズからは、ポリゴン・ウィンドウやブラック・ドッグ・プロダクションのアルバムもリリースされている。しかし、90年代も中期にさしかかるとエキセントリックなラウンジ・ミュージックを聴かせてくれるジミ・テナー、バンド形態のレッド・スナッパーといった、純粋なテクノとは一線を画す面々も登場。当時は??だった人も多かったかもしれないが、その後のワープがさまざまなジャンルとの関係性を深め、幅広いリスナーからも支持を集めていく状況を考えると、いま思えばかなり重要な時期だったのかもしれない。
そして現在。これまで常に時代の先を見据えてきたワープの活動にはさらに拍車がかかっている。エイフェックス・ツインやオウテカのブレイク、ボーズ・オブ・カナダやプレフューズ73ら新世代のスター候補生の登場、ナイトメアズ・オン・ワックス、トゥー・ローン・スウォーズメンらヴェテラン勢など、そのラインナップは充実の極み。かつてはテクノ・レーベルというイメージがあったものの、そのヴァラエティーに富む音楽性と冒険心に魅了されたヒップホップやロックのリスナーの支持も獲得し、〈エレクトロニカ・ブーム〉の中心と目されることもあった。最近はサブ・レーベルのレックスも始動させるなど、大御所レーベルになってもまったく衰えない求道者ぶりは嬉しい限り!(青木正之)