奇しくも筆者は、幸いにして今は亡き両親の計らいで当カラヤン、ベルリン・フィルに依る普門館日本公演に足を運ぶ事が出来き、遂にぞ此処に至って其の夜のプログラム1,3番を当ディスクを介して約半世紀振りに改めて鑑賞し、当日の感動を追体験するに至った。XRCD規格の当セットは、録音再生双方に於いてPCM方式に基づいている為、エッジの効いた鮮明な音響が約束されて居り、弦の細かい動きやさざ波の様なトレモロが未だ嘗て無い水準で浮かび上がるのを聴いて驚愕している。だが筆者には、此のXRCD規格と言うものはアナログ録音対象時に、よりレコード音声を彷彿とさせる効果、威力を発揮する物の様に思われる。それでも此処での録音が残響の少ない5000人収容のマンモスホールを舞台として居る事に鑑みれば、些か硬質では有るが、BRA,SACDには代行出来ない鮮度、純度を保ち得た上々の音質に落ち着いていると言うべきだろう。演奏の方は、生涯に渡り、ベートーヴェンをレパートリーの基軸に据え続けたカラヤンならではの面目躍如たる処を遺憾無く示したもので、我が傾聴した3番を始め、5番のフィナーレ、9番の2楽章等セッションでのカラヤンからは聞く事の出来ない金管の鳴りを堪能出来、やはりともするとレコーディングコンダクターと思われがちな此の指揮者もライヴに於いてこそ其の本領を最大限に発揮する事を示したものと言って良い。そして惜しむらくは楽員の座して居た椅子に起因するとも類推され得るギリギリと言った何かが軋む様なノイズが全9曲に渡って認められ、殊に8番にて頻発するのは僅かに遺憾である。