オイ、夏だろ? 休みじゃねえの? 天気はどうなんだよ? 晴れてんじゃん! じゃあ、今日はスムースなウェッサイ・チューンをクルマに積み込んで、クルージングと洒落込むとするか! ナニ? ウェッサイって何なのか、実際のところよくわかんないって? そんなのオレに任せとけよ! 今日はオレのナヴィゲートでウェッサイがっさい紹介してやるぜ!!

そもそも〈ウェッサイ〉とは〈Westside〉のことさ。LAを中心としたUS西海岸の、Gファンクが確立されて以降のある種のヒップホップ・アクトを指してそう呼ぶわけだね。ただ、直訳すると〈西側〉になるってことだから、USでは普通に〈West Coast〉とか言われることが多い。それが何に対する〈西側〉なのかというと……そいつは言うまでもなくイーストコースト~NYに対する〈西側〉という強い意志表明だったんだよな。この言葉が明確に用いられるようになったのは、西海岸のヒップホップが独自の発展を遂げて巨大化し、東海岸との対立構造ができあがった90年代半ばのことだね。結局のところ在NYのレーベルやメディアが多いヒップホップ界はNY贔屓だから、そんな状況に対してフラストレーションを感じるアーティストも多かったってわけさ。ドクター・ドレーらが確立したメロディアスなGファンクのフォーミュラは〈崇高なサンプリング・アートと詩情に溢れたラップを合致させたNYのヒップホップより程度が低い〉とか、当時は本気で言われてたんだぜ……リリックが直接理解できてない人が多いはずの日本でも。
で、もっとも怒っていたのがコモンと抗争したりしていたアイス・キューブだったんだ。彼が結成したウェストサイド・コネクションで執拗に〈ウェッサイィ~〉とアピールしていたのが他のアーティストにも飛び火し、日本ではカタカナ化したわけさ。
そんなふうに加熱しすぎた東西抗争の結果、96~97年に2パックとビギーが亡くなると、ギャングスタなスタイルをウリにしていたウェッサイ系のアーティストは停滞期に入っていく。99年にドクター・ドレーが歴史的なクラシック『2001』をリリースしてふたたび西の連中が盛り返すんだけど、その頃から日本でもウェッサイ独特のメロディアスな心地良さやクルージング感のあるグルーヴが普通に愛されるようになり、言葉としても〈西側〉という意味を離れてサウンドの傾向を伝える言葉として定着していき……現在に至るわけだ。とまあ、こんなムダ知識よりもさっさと全部聴いてくれよ! ウェッサイを知らないオマエらは夏の楽しみをひとつ失ってるようなモンなんだからな!