──思えば田名網先生のアナログな質感と宇川さんのデジタルなアプローチって対照的だと思うんですが、そもそも宇川さんが田名網作品に惹かれた理由って何だったんですか?
宇川「結構、そのへんは答えがわかってるんですよね。田名網先生は〈イラストレーション〉とか〈グラフィック・デザイン〉って言う言葉がまだ輸入されてないころから活動されていた人じゃないですか。だからこそ実験があったと思うんです。で、自分らの世代はDTPって言葉が輸入されたと同時くらいに、コンピュータでどんなふうにイラストレーションとかグラフィックデザイン的な展開ができるかを実験しながら探求してきた世代なんです。だから何十年間という時代を経ていたとしても、両者とも新たな表現手法みたいなものが自分たちの手に渡った瞬間に実験してる世代だと思うんですよ。そういった環境がすごく似てる。新しいテクノロジーが手に渡った瞬間に実験してる感じがね。だからエクスペリメンタルな隔世遺伝みたいなものは感じます」
──逆に田名網先生のほうから見て、宇川さんみたいな若いクリエイターとコラボレートしてみて面白いところはどこでしょう?
田名網「ぼくはもう自分の世代のクリエイターとやろうとは思わない。もちろん優秀な人はいるんだけれど、やってきたことがずっと同じじゃないですか。今回のディレクションを同じ世代の人に頼んでもそれ以上のものはでてこない、僕の想像できる範囲内でしかないわけです。でも、宇川君からは、こちらの想像とはまったく違うものがでてくる。そういう面白さってのは世代の問題もあるし、テクノロジーの使い方も変わってきてるからってこともあるんだろうけどね。それに宇川君は、これまでやってきた同世代のアーティストと同じ匂いがするんです。だからものすごく懐かしい感じがする。若い頃に寺山さんや宇野(亜喜良)さんといっしょにやってた時の感じがするんです。そういう雰囲気のする人って、今あまりいないんです。ぼくは肉体的な時代に生きてきた。精神的なものより、むしろ肉体を使って表現していく、それが僕の青春時代でした。唐十郎とかね。それが60年代だった。その時代の雰囲気を宇川君は持ってる。政治的だったり演劇的だったり、かつてと同じ雰囲気がある。そこが好きなんです」