──田名網先生は観客やMOODMANの音楽といった〈状況〉にインスパイアされたところは大きかったですか?
田名網「そりゃそう。それがなかったらライヴペインティングのおもしろさってないじゃないですか。だから描くほうとしては緊張するんですよ。音楽やお客さんもそうだし、2人ってのも緊張するんだよね。いくらこっちがこうもっていこうとしても、向こうがノッてこなかったらグチャグチャになっちゃう。相手の呼吸というかスピードを調整しながら、全体をみていかなくちゃならない。普通のライヴペインティングなら画だけ観てればいいけど、今回は相手を観ながらやらなきゃならない。描きながらチラチラとね(笑)。その呼吸をつかみながら、っていうのがおもしろかったかな」。
──やはり往復書簡とは違った感情のぶつかり合いみたいなものはありました?
田名網「往復書簡っていうのは互いに描いては渡しだから同じ空間は共有していないわけでしょ。ライヴペインティングって相手が描いているのが見えるじゃない。だから、〈こうきたか〉ってのがある。〈じゃあ、こっちはこういくか〉っていう駆け引きがね」
宇川「あとDVDとしてリリースされるってこともとても意識してるんです。例えばマルチアングル。AVで3カメで正面から、横から、手持ちでっていうふうに撮影したりするでしょ、アレってスゴイなってと思ってて。あとはキング・クリムゾンのライヴとかでギター寄り、ヴォーカル寄りと引きのカメラで撮ってたりとかね(笑)。だからライヴ感を出すにはマルチアングルって結構有効なんじゃないかと。それでマルチアングルの新しい使い方っていうので考えたのが4:3のキャンバスを3つ置く。3つ全部は見えない。でも両方から描いていくことで、両先生が真ん中のキャンバスに入っていくころには左右のキャンバスのカメラには誰も写っていないんですよ。音楽は流れてるんですけど、止まってるんです、時間が(笑)。で次のアングルに変わるとやっと2人が重なって描いてる。それって現場の目線と同じなんですよね。平面なんだけど、アングルを変えることで空間軸が生まれる。それを今回のライヴペインティングに活かすことができたと思う」
──ブラックライトの効果もすごかったですよね。
宇川「実際のものを観たらもう発狂しますよ。そもそもね、こんな無謀なアイデア、普通は通りませんよ(笑)。だって45本のブラックライトをわざわざ用意してもらって、あのデカいキャンバスに蛍光塗料で描いていくんですから」
田名網「打ち合わせは宇川君がやってたから、ぎりぎりまで内容を知らなかったんです。だから当日セットを観て驚いた。こりゃ失敗したらマズイなと(笑)。観客もどんどん入ってくるしさ」
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