漆原さんのバッハの思い出は、日比谷のイイノホールで開かれたデビューリサイタルか、ヴィニャフスキーコンクール後の同ホールでのリサイタルまで遡ります。素晴らしい演奏でした。バッハ無伴奏ヴァイオリンの自分にとっての原点は漆原さんです。10数年前に録音されていたのは知っていましたが、当時はしかめ面のバッハのイメージが強い無伴奏は敬遠していました。ふと昔のことを考えているうちに漆原さんのバッハが懐かしくなって入手しました。素晴らしくて素敵な演奏。45年前の日比谷の夜に戻ったような錯覚すら感じ、とても嬉しかったです。その頃にもおそらく感じた、水草がなびく姿が見える透明な清流です。音に触れることで心が研ぎ澄まされます。特にパルティータ3曲のたおやかな美しさは、従前のこの曲のイメージとは違う軽妙で美しい舞曲に感じました。演奏に加え、録音もまた素晴らしいです。CDだけでなくe-onkyoでハイレゾ音源でも聴くことが出来ます。どちらで聴いても小宇宙を感じさせる自然な響きは魅力的です。10数年聴かなかったことの後悔以上に、今こうして出会えたことに感謝しています。