7年ぶりのソロ・アルバム『BLUE MOON BLUE』をリリースしたのが2006年のこと。それ以降、高橋幸宏のワーカホリックぶりは〈凄まじい〉の一言に尽きる。木村カエラをヴォーカルに迎えたサディスティック・ミカ・バンドの再結成に参加し、アルバム・リリース&ツアーを敢行。そしてこちらも再々結成したYMOのヨーロッパ・ライヴ。さらに原田知世、高野寛らと結成したバンド=pupaでのアルバム・リリース&ツアーと、軽くピックアップしただけでもとんでもない仕事量なのに、ソロでのニュー・アルバム『Page By Page』も届けられてしまった。幸宏さん、いったいいつアルバムを作ってたんですか……?
「忙しすぎて自分でも覚えてなかったので調べてみたら、一昨年から作りはじめてました(笑)。同時進行でやっていたpupaのアルバム制作とライヴが楽しかったから、その印象が強すぎちゃって」。
とはいえ、『Page By Page』はもちろん手癖や惰性で作られた作品ではない。pupaで改めて感じた音楽作りの楽しさと、彼のソロ作に通じるポツンとした孤独感を折衷させたような雰囲気に満ち、幸宏との共同プロデュースを担当したanonymass/pupaのメンバーである権藤知彦や、盟友スティーヴ・ジャンセン、コーネリアス、アトム・ハートといった気心の知れた仲間たちの個性が注がれ、さらにはシガー・ロスのバックも務める女性4人の弦楽ユニット=アミーナや、ドイツのエレクトロニカ・レーベルであるモールに所属するラリ・プナら新たな才能も取り込まれている。音楽活動40年を経て、なお貪欲に刺激を求めようとする意欲がビシビシと伝わってくる内容だ。
「僕は、昔からソロ作でもその時々で興味のあるアーティストとコラボしたいんですよ。そういうスタンスは変わってないですね。アミーナとラリ・プナのヴァレリーには会ったことないんだけど、どちらも思ったとおりの音だった。アミーナはちゃんとメロディーのことを考えた弦のアレンジで。アトムは熱烈なYMOファンですごい真面目な人なのに、実体がよくわからない奇人(笑)。それが音にも出てるよね。曲によって世界観が違っても、全体的に見ると僕の統一感っていうのが自然と出てくるはずだなって思ってますから」。
確かに、フォーキーなエレクトロニカ~アンニュイなコーラスが心地良い歌ものから不穏な空気が漂うスロウ・ナンバー、変態的な音色が投入されたテクノまでと、参加したアーティストによって曲の感じはさまざまだ。そこで共通しているのは、複雑に構築されたリズムをさり気なくメロディーに組み込む手腕がすべての曲に発揮されていること。さらにもうひとつは、幸宏本人のヴォーカルがとても伸びやかなことだろう。その象徴的な曲が、アイリッシュな味付けを施されたビートルズのカヴァー“You've Got To Hide Your Love Away”ではないだろうか。
「青春時代に好きだった曲で、いつかカヴァーしたいと思ってたんです。“The Words”も、僕が大好きなジョージ・ハリスンだったらこう歌うんじゃないかって想像しながら作った。あと、いまはヴォーカルにリヴァーブをあまり使わないから、目の前でバンっと歌っているようなミックスにしたかったんです」。
近年の彼のモードともいえる、グリッチ・ノイズを取り込んだエレクトロニカは本作でも健在。もはや〈幸宏スタンダード〉となった〈チリチリ音〉についての興味はどうなっているのか、最後に訊いてみた。
「エレクトロニカは、スタイルとしては頭打ちになってる感じがありますよね。いまはいろんなジャンルに溶け込んでいる。僕もぜんぜん違うリズムの作り方をするようになるかもしれないし。今作のようなスタイルはこれが最終形になると思っています。おもしろいものが見つかったら、そっちに行きますよ。音楽をやってて、新しいものに興味がなくなったら、辞めるときだろうと思ってますからね」。
▼『Page By Page』に参加したアーティストの作品を紹介。