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第152回 ─ 今日もベックは無邪気な顔で音楽シーンを渡り歩く!

ベックを知るために必要不可欠な全オリジナル・アルバムをご紹介!

連載
360°
公開
2008/08/21   22:00
ソース
『bounce』 301号(2008/7/25)
テキスト
文/村上 ひさし

『Mellow Gold』 Geffen(1994)
〈どうせ俺たちゃルーザーさ〉っていうグランジ世代の気分を見事に代弁したヒット曲“Loser”を含む、メジャー・デビュー作。そういう流浪の詩人を思わせるフォーク感覚とDIY精神を併せ持ち、ジャンルの壁をあっさり越境してしまったミュータントの誕生に若者は狂喜。大人は恐れた。

『Stereopathetic Soul Manure』 Flipside(1994)
時代の寵児と持てはやされた『Mellow Gold』発表直後に、インディー・レーベルから出された彼の裏街道。デビュー前に録り貯めていた作品集で、レイドバックしたフォーキーな曲と、歪みまくったジャンク・ロックがせめぎ合う。インディー魂の炸裂ぶりには狂気が見える。

『One Foot In The Grave』 K(1994)
ベック史上もっと柔和で穏やかなフォーキー・アルバム。Kのカルヴィン・ジョンソンによるプロデュース作で、ふたりでひっそりギターを爪弾きながら歌うコーヒーハウス・ミュージック。いつも奇妙なことばっかやってるわけじゃないよ、と言わんばかりに純朴で、ルーツが窺える内容だ。

『Odelay』 Geffen(1996)
『Mellow Gold』で提示されたローファイ・ヒップホップが、いきなりテクニカラーと化したベックの真骨頂。無邪気な遊び心はそのままに、その感性を完璧にサウンドとして確立しているのには恐れ入る。いまとなってはあたりまえのジャンルの越境ぶりも、当時は驚愕モノだった。グラミーも受賞。

『Mutations』 Geffen(1998)
インディー作のつもりが、出来上がりを気に入ったゲフィンが〈ぜひともリリースしたい〉と申し出たいわくつきの作品。プロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチとの相性も抜群。丁寧に紡ぎ上げられたメランコリックな作風は、彼のソングライターとしての資質を知らしめた。ブラジル音楽にも接近。

『Midnite Vultures』 Geffen(1999)
ソウルやファンク・ビートを大胆に採り入れたパーティ・チューンがズラリ。当時ライヴでいつも盛り上がっていた“Debra”での、プリンスもどきのダンスとファルセット・ヴォイスがちょっと懐かしい。メルヘンチックなオモチャの国は、フレーミング・リップスにも通じるところ。

『Sea Change』 Geffen(2002)
破局と共に傷心モードに入った彼が、ふたたびナイジェル・ゴッドリッチと合体。メランコリックなメロディーが心に沁み入るが、カラフルでリッチな作風は、決してヘヴィーに沈んでいるわけではない。むしろ浮遊感もたっぷりで、まるで白昼夢を見ているかのようなサイケなトリップ感を味わえる。

『Guero』 Geffen(2005)
『Odelay』を彷彿とさせる、いわゆるベックらしさを取り戻した原点回帰作。ダスト・ブラザーズとのコンビも復活。ワイヤーだらけの機材に囲まれて、何だかゴチャゴチャDIYをやっていそうな風景がいかにも想像できる。だが、ハチャメチャぶりよりも小気味良さが立っているのは、年季ってこと?

『The Information』 Geffen(2006)
『Guero』に前後して制作されていた本作もほぼ同じような方向性で、ベックらしさが炸裂。ヒップホップの感覚をベースにしつつも、サウンドは幅広いジャンルに股がっている。リスナーに自由に作ってもらうジャケ、全曲収録のDVD映像で、CDアートの既成概念に挑戦状も突きつけた。