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第152回 ─ 今日もベックは無邪気な顔で音楽シーンを渡り歩く!

連載
360°
公開
2008/08/21   22:00
ソース
『bounce』 301号(2008/7/25)
テキスト
文/村上 ひさし

新しい世界を見せてあげる!


  常にコンセプチュアルな作品を発表し続けてきたベックだが、ニュー・アルバム『Modern Guilt』ではかなり様子が違っている。これまではジャンルの壁を打ち破る折衷主義を基本としながらも、時にアコースティックだったり、時にファンクだったり、トロピカリズモだったり、ヒップホップだったり、電子音だったりと、作品ごとにいろんな引き出しを開けてはわれわれをビックリさせ、楽しませてくれた。

 しかし、今回はやや事情が違っている。自分が隠し持ってた既存の引き出しを開けたというよりも、〈共同プロデューサーのデンジャー・マウスとやったらいったいどうなるだろう? ま、試してみるか〉的な素朴な実験精神が勝っているからだ。とはいえ、もちろん方向性はきちんと定まっていて、そのコンセプトに揺らぎはない。60年代フォーク・ミュージックを彷彿とさせるサイケデリックな感覚と音響世界、そこにエレクトロニックな要素が加わって〈サイケトロニック〉とでも勝手に命名したいサウンドが展開されている。古いようで新しい、スペースエイジのフォーク・ミュージックが誕生した。これまでのベック作品のように、きっちりパッチワークされていたり、整頓されていたり、あるいは意図的に散らかっていたり、といった確信犯的アプローチはほとんど感じられない。それよりも、出来上がったものを純粋に楽しみ、そのまま公開したとでもいったニュアンスが濃厚だ。まるで、ネット配信や自主レーベルの時代を歓迎するかのように、フットワークの軽いスタンスで公表されている。そこには自分の音楽キャリアをどうこうしようとかいった気負いは感じられず、〈こういうの出来たんだけど、みんなも聴いてみて〉くらいの軽いノリを筆者は感じているのだが。

 そこで思い出すのが、ベックもすでに十数年音楽シーンの中枢で活躍してきたという事実だろう。今年の初頭には、96年にリリースされた名作『Odelay』のデラックス・エディションもようやく陽の目を見た。また、その『Odelay』の流れを汲んだ、いわゆるベックらしいとされる遊び心溢れるハイブリッド・フュージョン作品『Guero』『The Information』と続いたところで、彼が次なるステージを開拓したいと野心を抱くのは、至極当然と思われる。そういう意味でも、このデンジャー・マウスとの実験的共演作は、まさしくベックにとって必要不可欠なアシッド・トリップだったと言えるのではないのだろうか。次のアルバムへと導いてくれる道しるべ的な作品ではないかもしれないが、健全なる気晴らし旅行であり、ふと迷い込んだ横道ではないかという気がする。そういう無鉄砲な思いつきこそがベック音楽の真髄であり、93年のシングル“Loser”から一貫している社会のハミダシ者としての気概でもあるわけだし。さすがにホッペはもう真っ赤ではないかもしれないが、内にはまだまだ無邪気な心をたっぷり秘めているベック少年なのである。

▼『Modern Guilt』に参加したアーティストの作品を紹介。

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