さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!
1. 渋谷系の成り立ちと特徴
渋谷を中心に90年代初頭より台頭してきた外資系CDショップが主導した、リスナー志向の新世代アーティストによる運動――それが渋谷系です。命名者は「BARFOUT!」編集長である山崎二郎など諸説ありますが、その呼称からもあきらかなように、そもそもジャンルでもカテゴリーでもない、イイ意味で〈雰囲気〉に近い現象、ってことはまず押さえてください。膨大な音楽の歴史に手軽にアクセスできる外資系CDショップの恩恵を受けた都市型リスナーを中心に支持を集めたのが、〈渋谷系〉といえば即座に名前の挙がるフリッパーズ・ギター、オリジナル・ラヴ、そしてピチカート・ファイヴといった洋楽を違和感なくハイセンスなポップスに落とし込む表現者たちです。マニアも唸らせる60~70年代の音楽や映画、文学からの引用、洒脱なアートワーク、ポスト・パンクの挑戦的なアティテュード、そしてフレンチ風のファッションなどが彼らの共通項ですが、マニアックな精神を捨てずにメジャーへ殴り込んでいったそんなアーティストと、彼らを支持するファンとの共犯関係が渋谷系をさらに大きな現象にしていきます。
そしてフリッパーズ解散後の93年、メンバーである小山田圭吾(コーネリアス)と小沢健二のソロ・デビュー以降、渋谷系はピークへと向かいます。活発化するインディー・レーベルをも巻き込んで、ソフト・ロック、アシッド・ジャズ、スウェディッシュ・ポップなどの音楽が次々に提案/支持されていく、かつて類を見ない爛熟期を迎えるのです。しかし、シーンの肥大化が極限に達すると共に渋谷系の手法を安易に採り入れたアーティストが急増。さらに進行するメジャーとインディーの二極化に伴い、前述の共犯関係も崩れて空洞化した渋谷系は、カジヒデキの大爆発(96年)などを最後に終息へ向かうのです。