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I ソフト・ロックの成り立ちと特徴
流麗なコーラスやオシャレなアレンジなど、曖昧なイメージが先行しがちな〈ソフト・ロック〉という音楽をきちんと定義するとなると、これがかなり難しい。そもそも〈ソフト・ロック〉という言葉自体は日本で生まれたもので、欧米では〈サンシャイン・ポップ〉〈ソフト・ポップ〉などと呼ばれているが、いずれにせよこのカテゴライズは極めて感覚的なものだ。本講では〈60年代中~後半のUSを中心に隆盛したスタジオ・ワークに特化したポップスの総称〉といささか強引に定義することで、話を進めていきたいと思う。
当時のUSポピュラー音楽界は、フィル・スペクターやビートルズによる実験精神に富んだ音作りや、バート・バカラックの洗練されたサウンドがヒットを飛ばすという新時代に突入していた。そして、それらに触発されるように気鋭プロデューサーはこぞってスタジオに籠もり、ドゥワップやサーフ・ロック、フォーク・ロックなど、それまで流行っていた音楽に野心的なアレンジを施したのだ。その結果生まれた甘美で優雅な進化型ポップスを、私たちは〈ソフト・ロック〉と呼んでいるわけである。カート・ベッチャー(ミレニウム)やロジャー・ニコルズ、ワーナーのレニー・ワロンカーといった優秀なプロデューサーの下で数多くのバンドが成功し、ソフト・ロックの代名詞的なレーベル=A&Mは、ジャズやボサノヴァ、ソウル・シーンとも共鳴しながら良質な作品を多数送り出すことで躍進していった。このように、ソフト・ロックは世界各地に飛び火して60年代末まで発展を続けるのだが、70年代に突入するとロックの多様化の波によってその勢力は次第に衰退していくのである。