カンタベリーより愛を込めて
ワイアットが最初に世間にその名を知らしめたのはソフト・マシーンのメンバーとして。デビュー作『Volume One』ではのっけからワイアットの柔らかな歌声を聴くことができる。また、この1作で脱退するケヴィン・エアーズのソロ1作目『Joy Of Toy』にワイアットは参加。無垢と実験に溢れた名作に華を添えた。結局、ワイアットもソフト・マシーンを3作で脱退、マッチング・モールを結成するが(『Matching Mole』に収録された“O Calorine”は涙の名曲!)、彼らのほかにキャラヴァン、ヘンリー・カウなど実験的なジャズ・ロック・バンドが60年代後半に続々と出現。やがて彼らの活動拠点だった土地の名前から、〈カンタベリー・シーン〉として知られていったのでした。
SYD BARRETT
ソフト・マシーンとは共に伝説のライヴハウス〈UFOクラブ〉に出演、良きライヴァルだったピンク・フロイド。その伝説のリーダー、シド・バレットの初ソロ作『Madcap Laughs』(EMI)にワイアットは参加。シドが持つドラッギーなセンスのなかに隠されたピュアな精神性。正気と狂気の狭間を往き来した天才も、いまは〈クークーランド〉でひっそり隠遁。
BRAIAN ENO
ワイアットが愛する歌声のひとつ、ブライアン・イーノ。彼との付き合いは長く、ロキシー・ミュージック脱退後のソロ2作目『Taking Tiger Mou-ntain(By Strategy)』(EG)のクレジットには、すでにワイアットの名前が。グループからクビにされた者同士、共に苦い酒を飲むこともあったのかも。ワイアットの新作でも仲の良いとこ見せてマス。
ELVIS COSTELLO
いまやUKロックを代表する〈ヴォーカリスト〉としてのスタンスを確立しつつあるエルヴィス・コステロ。彼がワイアットのために書き下ろした掛け値なしの名曲が“Shipbuilding”。『Punch The Clock』(Demon)では自演したりしてますが、コステロならではのしっとり感が印象的。
PAUL WELLER
コステロ以上に、孤高の道を歩まんとしている頑固者ロッカー、ポール・ウェラー。『Shleep』以来、2作続けてワイアットのアルバムに参加。自身の最新作『Illuminat-ion』(Independiente)で見せた不動の存在感は、ワイアットとの共同作業で手に入れたアーティストとしての揺るぎない自信の現れか。歳とるほどに楽しみな人。
BEN WATT
80年代、数々の若手アーティストとセッションを重ねたワイアット。なかでもベン・ワットとは共同名義でアルバムをリリースしたりも。ワットはその影響下で『North Marine Drive』(Cherry Red)を制作。〈ニュー・センシティヴィティー〉、あるいは〈ネオアコ〉と呼ばれたシーンにおける、この輝けるクラシックにワイアットの息吹が吹き込まれていたことを忘れるわけにはいかない。
PASCAL COMELADE
かつてフレンチ・アヴァンギャルド・ミュージシャンたちにトリビュート盤を捧げられたワイアット。シーンきっての個性派パスカル・コムラードの『September Song』(Disques Du Soleil)では共演を果たし、トイ・ミュージックをバックにワイアットのヴォーカルが乗るという夢見心地の仕上がりに。