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第31回 ─ ヒゲの王様、ロバート・ワイアットの〈クークーランド〉を訪ねてみよう!

連載
360°
公開
2003/10/09   17:00
更新
2003/10/10   14:58
ソース
『bounce』 247号(2003/9/25)
テキスト
文/村尾 泰郎

奇妙で、温かくて、ユーモラスで、ちょっと哀しくて、でも希望に満ちた〈クークーランド〉へようこそ!

〈クークーランド〉の王様、ロバート・ワイアットが新作について語る


〈孤高の〉──そんな使い古された大仰な言葉も、ロバート・ワイアットの前では小さな花の冠のように可愛いもの。60年代後半、ジャズ・ロックの名バンド、ソフト・マシーンから端を発し、マッチング・モール~ソロと独自の音楽性を開花させてきたワイアット。そのジャンルを越えて純化されたサウンドが6年ぶりに僕らの耳へと届けられた。

「僕のソロというより、バンドのアルバムと言ったほうがいいかもね。レコーディングのために集まってくれたメンバーは、楽器を弾いてくれたという以上の存在だった」。

 ワイアットに愛されたメンバーたち、デヴィッド・ギルモア、ブライアン・イーノ、フィル・マンザネラ、ポール・ウェラーは、前作『Shreep』でも〈王さま〉を支えた〈騎士(ナイト)〉たち。そこに今回、カレン・マントラーという〈プリンセス〉が加わる。

「彼女の両親(マイケル・マントラーとカーラ・ブレイ)をとおして彼女のことはよく知ってたんだ。彼女もまた才能あるミュージシャンだけど、シンガーとしてはブラジルの歌手に通じるものがある。だから今回は2人でボサノヴァを歌ったんだ」。

 そのボサノヴァというのがアントニオ・カルロス・ジョビン“Insensatez”なのだが、カーラはもとより、ワイアットの歌声には胸を打たれる。ワイアットの声を触媒にして、サウンドは不思議な息吹を湛えているのだ。

「音楽と声。それがどう影響し合うのかは詳しくわからない。僕にとって音楽が始まるところは言葉が終わるところで、その中間に〈詩〉がある……うまく説明できないけど」。

 そう、声/感情/音楽/詩、それらがすべて溶け合った領域に生まれた世界こそ〈クークーランド〉。だからこそ、本作はまさにワイアットの魂そのものなのだ。

「〈不思議の国のアリス〉は知ってるよね? 〈クークーランド〉は百年後の〈不思議の国〉なんだ。だから僕は〈不思議の国のワイアット〉ってことにしておこうかな(笑)」。