奇妙で、温かくて、ユーモラスで、ちょっと哀しくて、でも希望に満ちた〈クークーランド〉へようこそ!
〈クークーランド〉の王様、ロバート・ワイアットが新作について語る
〈孤高の〉──そんな使い古された大仰な言葉も、ロバート・ワイアットの前では小さな花の冠のように可愛いもの。60年代後半、ジャズ・ロックの名バンド、ソフト・マシーンから端を発し、マッチング・モール~ソロと独自の音楽性を開花させてきたワイアット。そのジャンルを越えて純化されたサウンドが6年ぶりに僕らの耳へと届けられた。
「僕のソロというより、バンドのアルバムと言ったほうがいいかもね。レコーディングのために集まってくれたメンバーは、楽器を弾いてくれたという以上の存在だった」。
ワイアットに愛されたメンバーたち、デヴィッド・ギルモア、ブライアン・イーノ、フィル・マンザネラ、ポール・ウェラーは、前作『Shreep』でも〈王さま〉を支えた〈騎士(ナイト)〉たち。そこに今回、カレン・マントラーという〈プリンセス〉が加わる。
「彼女の両親(マイケル・マントラーとカーラ・ブレイ)をとおして彼女のことはよく知ってたんだ。彼女もまた才能あるミュージシャンだけど、シンガーとしてはブラジルの歌手に通じるものがある。だから今回は2人でボサノヴァを歌ったんだ」。
そのボサノヴァというのがアントニオ・カルロス・ジョビン“Insensatez”なのだが、カーラはもとより、ワイアットの歌声には胸を打たれる。ワイアットの声を触媒にして、サウンドは不思議な息吹を湛えているのだ。
「音楽と声。それがどう影響し合うのかは詳しくわからない。僕にとって音楽が始まるところは言葉が終わるところで、その中間に〈詩〉がある……うまく説明できないけど」。
そう、声/感情/音楽/詩、それらがすべて溶け合った領域に生まれた世界こそ〈クークーランド〉。だからこそ、本作はまさにワイアットの魂そのものなのだ。
「〈不思議の国のアリス〉は知ってるよね? 〈クークーランド〉は百年後の〈不思議の国〉なんだ。だから僕は〈不思議の国のワイアット〉ってことにしておこうかな(笑)」。