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第7回 ─ 歌う女優

CHARLOTTE RAMPLING 伝説の女優、シャーロット・ランプリングが歌う大人の愛、そして官能

連載
Discographic  
公開
2002/10/02   13:00
更新
2002/10/03   23:00
ソース
『bounce』 236号(2002/9/25)
テキスト
文/永瀧達治

「イギリス人の私が、フランス語で伝統的なシャンソンを歌うなんてとても無理です、と断っていたのですが……」。

女優シャーロット・ランプリングを歌わせようと最初に考えたのは、ベテラン作詞家ミッシェル・リヴゴーシュ(〈群集〉などエディット・ピアフの作詞家)と、ピアフやバルバラなどの音楽出版人であるピエール・リベール、そしてベテラン作曲家、ジャン=ピエール・ストラ(ジャン・マレーや、モナコ王妃となっていたグレース・ケリーの朗読作品などの作曲家)の3人である。彼らは3年の年月をかけてランプリングを口説いた。

「歌うことは断っていたのですが、彼らは良き時代のグラン・ムッシュ(立派な紳士)で、何度も食事に誘われて、彼らと会っているうちにエスプリに満ちた知的な会話が私を魅了しました。映画でもそうですが、私はとても内気なので本当に心が通じ合えないといっしょに仕事ができないのです。それに彼らは私を、と決めたらそう簡単に諦めてくれないことも自尊心をくすぐられて、悪い気はしませんでした。そんな彼らに私生活の話などをするようになったら、私をテーマにした作品を次々と作ってくれて……。それらの作品が女優としての、そして個人としての私にとてもぴったりくる気がして根負けしてしまったんです。でも、録音までにさらに2年かけました。歌の練習ももちろんですが、私は自分の歌う声が自分の思うとおりにコントロールできるまで訓練したのです。映画と違って、歌手として私のデビューでしたから」。

映画「愛の嵐」以来、神話の女神のごとくヨーロッパの大女優として君臨していたシャーロット・ランプリング。90年代以降、長い間話題になる作品も少なく開店休業状態であったが、フランソワ・オゾン監督の「まぼろし」以来、50代の大人の女性を演じられる数少ない女優として蘇っている。

「実は歌手になろうというようなつもりではなく、ずっと前から歌の練習はしていました。私にとって歌うことは内気な自分を克服するための癒し療法だったのです。今回のアルバムは、鬱状態になっていた自分を救ってくれました。私の歌手デビューは自分で作品を作ったりする歌手としてではなく、詞と曲に与えられた世界を歌で表現する演技者としての歌手です。女優としてのキャリアが活かされたことはいうまでもありません。でも映画と同様、私がどんな役を演じるのか納得するまで返事はできないのです。映画と較べると歌は小さな宝石のようです。物語でなく雰囲気が大切で、私は聴く人の耳元に特別に歌いかけるような術を心掛けて練習しました。映画の台詞とは発声自体が異なるのです」。

それは女優ランプリングが歌ったのだろうか、それとも個人としてのランプリング?

「女優にとってどこまでが仕事の自分で、どこから個人の自分かわからなくなります。官能的と言われますが、官能的であることは個人としてもとても大切なこと。今回のアルバムも官能的と言われれば嬉しいです」。

映画「まぼろし」
突然、夫を失った妻マリーの悲しみと再生を感動的に描いた本作。「あなたの皺を撮らせてほしい」。そんな監督のラヴコールに見事に応え、シャーロットは風格ある美しさで見事にヒロインを演じ切っている。
2002年/フランス 監督/フランソワ・オゾン 出演/シャーロット・ランプリング、ブリュノ・クレメール、アレクサンドラ・スチュワルト、ジャック・ノロ他 東京・渋谷シネマライズにて公開中。以降順次全国公開予定(配給/ユーロスペース)

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