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インタビュー

RUMI(2)

笑って生きていくために

  「表に出てこない(世の中の)声を外に出してくる人。人としてまず好き」と彼女が敬愛するSHINGO☆西成の“U.Y.C.”へのオマージュとして、自身の変わらぬありようを同曲ばりのファニーなコーラスで反転させてみせる“A.K.Y”(=あえて.空気.読みません)。「自分の日常とヒップホップが出会ってる場面を作りたかった」という言葉そのままにくつろいだひとときを覗かせる“湯けむり風°呂ダクション”。それらアルバムの前半で心をほどき、“銃口の向こうに”を挿んで以降、アルバムはぐっとパーソナルな方向へとその舵を切る。心乱れる友人を前に「心で思うのと等しく言葉にできなかった」かつてのもどかしい経験を思い、歌を介して改めてその友人に言葉を綴るスキット“a tiny song for my friend”では、これまでその身に纏っていたトゲや、周りに向けられていた銃口をすべて収めて曲に向かった。語りかけるような穏やかさに満ちたその歌が、CHIYORIとの“サボテン”へと繋がれるに至り、心荒んだ友人の姿とRUMI自身の姿が重なっていく構成にもそれは見える。彼女がライヴ会場で出会うファン、街のどこかのクラブで話しかけてくる人、そしてこれから彼女を知ることになる人たち――RUMIはここで、言葉を送る友人の先にリスナーの姿を見ている。

 「ファーストの『Hell Me Tight』は〈作れればいい〉ぐらいに思っていて、まさか聴く人が出てくるとは思ってなかった。そのうち聴いてくれる人がいるんだっていうのがうっすらわかってきた時に、聴く人のこととかよくライヴに来る子たちの力になれたらいいなって気持ちも芽生えてきた。言いたいことを言うってのは大前提にあるとしても」。

 歳を重ねていま、RUMIは思う。「何かがおかしいとかそういうのはいまも思うけど、それでも笑って生きていくためにどうしたらいいのかと考えるようになりました」と。『Hell Me NATION』も、つまるところそれがベースにあるアルバムだと言ったらあまりに乱暴だろうか。それと重なるのかはわからないが、常々「救われたり落とされたり」してきたという中島みゆきの楽曲のメンタリティーと、RUMIの思いはこの先さらに響き合うことになりそうだ。RUMIいわく、中島みゆきの音楽は「寂しさと強さと愛が常に共存している」。

 「孤独で周りと上手くいかない人とか、何かを我慢しながら苦しんでる人。誰にでも少しはそういう部分があると思うんですけど、自分は特にそういう人を気にしてしまう。そういう人の心にスッと入るような歌を書きたいし、ハッとしてほしい。情報が一方的にしか入ってこなかったり、ここではこうしなきゃっていう暗黙のルールみたいなのって実は気付かないうちに物凄くいっぱいあるし、みんな知らず知らずのうちに凄くいろんなものに囲いをつけられて生きてるんですよ。それが良いのか悪いのかも考えないところってあると思うんで、そういう感覚をコンコンってノックするようなものに少しでもなったらいいですね」。

 「アンダーグラウンドなヒップホップのリスナーには聴いてほしいけど、家族とか友達は聴かないでいいって思うことがいままでは結構あって」と笑う彼女にとって、今回の『Hell Me NATION』は初めて「より近い人に聴いてほしい」作品になった。「3枚のアルバムで大まかな自分の要素は出せたかなと思うんで、これからは自分の強いところをあえて出していかなくてもいいのかな」――みずからの内面を探りつつ、近い人に届けられる音楽を、RUMIはさらに突き詰めていく。

▼『Hell Me NATION』に参加したアーティストの作品を一部紹介。


漢の2005年作『導~みちしるべ~』(Libra)。現在入手困難です……

▼RUMIの客演した作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年11月11日 18:00

ソース: 『bounce』 315号(2009/10/25)

文/一ノ木 裕之