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インタビュー

モーサム・トーンベンダー(2)

日常に始まり、日常に終わる

「激しい、エクストリームな曲が増えましたよね」(武井靖典、ベース)。

凡人が凡人であることに気づき、激しく悶絶する冒頭の“凡人のロックンロール”と、静かな夜に遠い宇宙の彼方で生まれる星のことを想うラストの“ONE STAR”だけを取ってみても、静と動の極端な落差がある本作は確かにエクストリームなアルバムである。

「昔からそういう両極のものはあったんだけど、いままでは静かな曲をアルバムに散りばめていたのが、今回は、聴いたとき強烈な印象にしたかったので、激しい曲と静かな曲をパキッと分けてみたという」(藤田勇、ドラムス)。

そうした過程を経て、本作で明らかになったモーサム・トーンベンダーの特異性、つまり、自室でギターを手に空を飛ぶことを願う若者と、街で進行する朱に彩られた革命が何の違和感もなく同居する本作は果たしてどのように作られたのか?

「今回は断続的にレコーディングをやってたので、前回のアルバム・ツアーが終わって、去年の年末にはスタジオに入ったりして、新曲が出来るたびにレコーディングして、それをまたライヴでやってみてアレンジを変えたり、っていう作業ができたんですよ。それによって、例えば〈ライヴではそんなもんじゃないだろ?〉っていう突っ込みがガンガンあったり、ライヴの感覚に近づけるための確認作業ができたので、ライヴの影響は大いにあると思いますね」(百々和宏、ヴォーカル/ギター)。

「録り方は、以前から一発でドーンとやる、そういう録り方でやっとるし。それでいて、今回の音はかなり生っぽい、刺さるような尖った感じで入っとると思うんやけど、やっぱり、レコーディングとライヴで越えられそうで越えられない一線が俺の中にはあって、それはそれでどちらもいいところはあるんやけど、やっぱり〈空気〉にライヴのときの気持ちが出とる感じが理想かな」(武井)。

冷静と熱狂の……つまり、スタジオ・ワークとライヴ・パフォーマンスのギャップはロックンロールにおける最大のテーマのひとつであるが、極端な話、ライヴをそのまま音源化しても、それが必ずしも正解であり得ないのは、現場ではなく、日常にあるリスナーがそれを冷静な耳で聴いてしまうからであり、その意味で作り手は日常と非日常の葛藤から逃れることはできない。そこで彼らが選んだのは……日常にあり続けること。

「俺が考えるに、日常的に生活してるなかにも非日常があると思うんです。例えば、夢を見たり、ハッと気付いたらなにかを考えてた、みたいな。そういう夢か?現実か?っていう感覚に〈感じるもの〉があって、自分を不思議に思ったり、気になったりするんですよ。それって素の状態やし、狂っとるわけでもないんやけど、日常にあるそういう瞬間をピンポイントで突き詰めて考えると、実は狂っとったり、非日常だった、みたいな。だから、日常に始まり、日常に終わるって言われるのはすごく嬉しいですね」(百々)。

つまり、日常を起点にしているからこそ、彼らは見知らぬことを想像することも、静かな星を思い描くこともできるわけだ。

「でも、なかなかね、頭で考えてバランスを取ろうとしても、うまくいかないっちゅうか、妥協点を探すみたいな感じになることのほうが多いんですよね。だから、主観で〈良いか、悪いか〉、とりあえずメンバー間で出し合って、意見が割れることも多いんですけど、そこでお互いが何考えとうか、その曲の見方とかベクトルがわかっていたほうが、そのうえで何ができるかってアプローチができるじゃないですか。その部分で、今回は突っ込んだ話し合いができたし、そういうプロセスを経ると、曲もより強いものになるな、と思いましたね」(百々)。

「武井くんはテクノが好きやし、俺も最近はレゲエとかダブばっかり聴いてるし、でも、自分らのライヴはギター、ベース、ドラムでやるのがいちばんカッコイイっていうのがすごいあるんですよ。ロック・サウンドにこだわってるわけではないし、音楽はなんでも聴くんですけど、スタイルとしてはこれがいちばんカッコイイな、と」(藤田)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年11月07日 12:00

更新: 2003年02月12日 16:35

ソース: 『bounce』 237号(2002/10/25)

文/小野田 雄