「音楽の良い所は,打ちのめされても,痛くないところだ」ボブ・マーリー。
どんなに完膚なきまでに打ちのめされ、その圧倒的な美の力に比し、自らの存在のあまりの矮小さに地の底まで叩き落とされても、それでもそれを聴くことで幸せすら感じる。そして聴く度に堪えきれず泣きそうになる。クレーメルのバッハ「シャコンヌ」。
いつ聴いても決して「慣れる」ということがない。クレーメルが弾くこの曲には,切れ味鋭い日本刀で,自らも傷つきながらも,漆黒の夜の闇を切り裂いて進んでいくような,痛みと推進力,疾走感を感じる。
その演奏は「心揺さぶられる」なんてものじゃない,心臓を直接鷲づかみにされているような真剣味,そう,正しく刃物のごとく「真剣」味をもって,心に突き刺さってくる。そして,刃物で切られるかのように,切ない。刃物のイメージがつきまとう。これは刃物だ。
バイオリンの「弓」は正しく武器そして凶器ではなかったか。そして神がかった狂気すら覚える演奏に驚喜する。