メンバーズレビュー一覧

ユウコ・プレイズ・ギロック-スタイル- / 三舩優子

アメリカのクラシックピアノ界を代表する音楽家、ウィリアム・ギロックのピアノ作品集。全体に作曲者の曲想や作風を忠実に反映させた端正なまでに美しく軽快で歯切れの良い、透明感のある響きでセンス良くまとめられたピアノ演奏が目を引く。収録作品はひとつひとつが肩の凝らない短い曲で、長調が大半を占め、アメリカの情景漂うさまざまなスタイル、作風の曲が収められており、何度繰り返し聴いても聴く者を飽きさせない。

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いましゅうさんが書いたメンバーズレビュー

  • 1

(全8件)

若き俊英ヴァイオリニストとピアニストのデュオによる秀逸なCD録音演奏である。
本CDに収められている曲に聴きなれたクラシックファンでも、一度この2人の演奏を聴けば、その完成度に思わず耳を傾けうならされるほど、ハイレベルで充実した作品に仕上げられている。

ショーソンの「詩曲」では、ヴァイオリンがたっぷりとゆったりしたテンポでメロディーを朗々と謳いあげ、ピアノはヴァイオリンの音色に乗せて、浮き立つような美しい分散和音を響かせる。ヴァイオリンは高音部はシャープで繊細、透明感ある透徹した音色が際立つ。
主張の意図が明確に示されるメリハリのある演奏は、中でも後半部のクライマックスに達する速いパッセージに向けてのスリリングな切迫感に説得力がある。

フランクのヴァイオリン・ソナタは、奏者がまさに満を持して収録したと思われる充実感に溢れた演奏が繰り広げられる。福澤のヴァイオリンは力まず慌てずせっぱつまらず、たっぷりと余裕のある、つねに聴き手に語りかけるような歌い方を貫徹する。技術的にもフレージングや音色の緻密な変化のつけ方が際立っており、低音は太く重厚感があると同時に、ピンと筋の張った伸びのある音色を醸しだす一方で、高音は細い線で透徹した美しい音色を輝かせる。ヴァイオリンを終始支える北端のピアノは、一貫して透明感ある深く味わい深い響きを保持している。

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グレイス

奥野由紀子 (Classical)、他

5:
☆☆☆☆☆
★★★★★

アルトフルートの独特の奥深くまろやかな音色とボリュームのある分厚い響きを隅々まで堪能できる一枚。通常のフルートとは違い、アルトフルートはソロで演奏される機会は少ないうえ、アンサンブルでも蔭の部分を支える、暗く地味な楽器という印象が強いが、この奥野由紀子の演奏を聴けば、そのような印象は一瞬で吹っ飛んでしまうような、明るく伸びのある美しいクリアなアルトフルートの音色がこのアルバム全体を通じて体験できる。
収録曲もクラシックファン以外でもメジャーで聴きやすい曲がずらり勢ぞろい。どの曲も奥野の演奏は、どの曲も必ずクライマックスになる部分が設定され、ピアノと相まってナチュラルに進行するクレッシェンドの盛り上がりが、聴き手を飽きさせない。
アルバム全体を通じて、奥野の吹くアルトフルートは、人間の肉声音域に近いせいか、まるで人に何かを訴えかけるような語り口で聴き手を虜にしてしまう。さらにアルトフルートにとっては演奏が難しいとされる高音部のロングトーンやトリルでさえ美しくナチュラルに響かせる奥野の演奏技術には驚かされるばかりである。
加えて本CDの録音技術の高さも秀逸であり、奏者の息づかいが間近に聞こえ、それを支えるピアノの伴奏もまるでハープのごとく立体的に響き、あわせてまるで間近で演奏を聴いているような錯覚を覚えるくらい臨場感にあふれている。管楽器は苦手という人も、このCDを聴けば、構えずともナチュラルな感覚で耳に入ってくるアルトフルートの響きに心を奪われること間違いなしだろう。

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Le Grand Tango

櫃本瑠音、他

5:
☆☆☆☆☆
★★★★★

若きチェリストが、さまざまなチェロの奏法を駆使した現代音楽の難曲に挑んだ、燦然と輝く演奏を収めた秀逸な一枚である。
本CD収録曲はいずれもピツィカートやダブルストップ、グリッサンドなどの奏法が多く登場する難易度の高い曲ばかりであるが、奏者はそれらをものとも労せず、終始濁り詰まりのない精緻で柔らかいほどの滑らかな音色で美しくリズミカルに弾き切っている。
ゆったりとしたテンポ感のうえに歯切れよい重音の刻み、グリッサンドに低弦の分厚い音色が心地よく耳に響くピアソラのグラン・タンゴ、民族楽器風の独特の響きをあえてチェロの無伴奏ソロで再現させたかのような幻想的で神秘的なソッリマのラメンタチオ、フレーズごとに絶妙な間合いをとる黛敏郎のBUNRAKU、素晴らしく哀愁を誘うチェロの低音の分厚い響きは特筆すべき
である。
収録曲全体を通じて、チェロの歌い方や間の取り方の絶妙さと同時に、さまざまな奏法を駆使する奏者の極めて高い技術力が驚くほど精緻に録音に反映され、ここにそれぞれの現代音楽が生き生きと美しく再現されている。

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若いピアニストが、ソロCDの初リリースでシューベルト晩年の大曲を2曲収録したのには大きな意義がある。
シューベルトの晩年は死の予兆が常に差し迫り、作曲された楽曲のテーマにもメロディーにも、独り死に向かう絶望感や虚無感、孤独感がみなぎっていると言われる。そして今回収録された2曲も、いわば作曲者が人生の終焉を迎え諦念に満ちた雰囲気を醸しだすかのような悲哀感漂う演奏が多い中、守重のピアノはそうしたオーソドックスな解釈上の前提を取り払い、若々しく凛とした作曲家シューベルトの音楽を再生させることに成功している。その演奏には、たえず前進する推進力に溢れ、生き生きと瑞々しさがほとばしり、絶望感よりもむしろ生きる希望や瞬間の喜びや望みすら感じさせられるような、溌剌とした新鮮な雰囲気を醸しだしているからである。
今回収録された全曲を通じ、守重のピアノはその軽やかなタッチと推進力、強弱のダイナミズムに加強弱のダイナミズムに加え、とりわけ高音部のメロディーの美しさが特筆すべき魅力である。シューベルトは31歳という若さで亡くなったことを加味すれば、この演奏はまさに作曲者の晩年の実際の姿を再現した演奏と言えるかもしれない――それほど筆者には彼女の演奏が新鮮に感じられた。

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リスト: 巡礼の年「スイス」

三舩優子

5:
☆☆☆☆☆
★★★★★

リストのピアノ作品の演奏をライフワークとする三舩優子が満を持して録音に臨んだ渾身の一枚である。彼女のオール・リストで組んだ曲集では3枚目のCDになるが、この「巡礼の年 第1年 スイス」の全曲録音は初めてであり、それだけに今回の全曲演奏のリリースはまさに待望のプログラムであり、リストファンのみならずクラシックファンにとっても、大そう興味をそそられるものに違いない。三舩優子というアーティストは、けっして自分流の演奏スタイルに固執するピアニストでもなければ、音楽のエンタメ性を前面にアピールするような類の演奏家でもない。どのような音楽でも、作曲家が作品に託したモチーフを最大限に尊重し、それを極限まで追求し、その意図するところのものを可能な限り忠実に再現しようとするピアニストである。その結果、彼女の演奏をとおして、作曲家が作品に込めようとした心情や風景が、そのまま聴き手にストレートに伝わってくるのである。今回のリストの作品集も、まさにこの彼女の演奏姿勢から生まれる最良の特性が、余すところなく随所に発揮されている。このCDではどの曲も、ピアノが紡ぎだす音色の美しさや煌びやかさが際立つと同時に、作曲家が個々の楽曲を通して描こうとした風景や心情が、面白いまでにリアルに描写されている。聴き手は音楽を聴きながら、牧歌的な田園風景や旅する主人公の孤独な心境にひとつひとつ思いを馳せる楽しみ、醍醐味を堪能することができるだろう。このピアノ曲集には「巡礼の年」というタイトルがついているが、けっして宗教や信仰をモチーフにした音楽ではない。むしろ作曲者自身の「魂の浄化」がモチーフであるかのような曲想で溢れる、精神的な崇高さに満ちた楽曲集である。さらにこのCDの収録曲の演奏全体に共通する技巧的特性として、ピアニストの左右の手からそれぞれ繰り出される音楽の絶妙なコントラストと「立体感覚」が挙げられる。すなわち低音域では聴き手の心に深く突き刺さる、連続する強靭な和音が激しく煽りたてるように演奏される一方で、高音域では煌びやかな音の粒が流れるように美しく奏でられる――この左右の手がまったく別々の動きや表現を繰り返しながら同時進行するさまは、まさに奏者と聴き手がひとつの空間を共有しているかのような、奥深い立体感覚を聴き手に与える音響的効果をもたらしているのである。

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シュトラウス、フランクのどちらのソナタとも、既成の演奏枠を超えて、楽曲に内在する甘美でロマンティックな要素が全面に紡ぎ出され、奏者ならではの高い演奏技術と個性的表現に裏打ちされた珠玉の名演集である。

一般にはどちらのソナタも重厚で畳み掛けるような力演が多い中、このCDでのヴァイオリンは、自然体で力の抜けた艶のある伸びやかな音とともにどこまでも澄み切った心で、現世の喜怒哀楽の感情を超越した次元に現れる「純粋な音楽」を追究しているかのような演奏を繰り広げる。
ヴァイオリンは、曲の緩徐部分では息の切れるまでたっぷり間を持たせつつメロディーを謳わせ、楽曲の意図する表現枠のぎりぎり限界まで、息の長いスケールの大きな表現に徹しようとする。一方で激しいフォルテやクレッシェンドは、けっして音楽の気品を崩すことなく切れ味鋭い音色とともにスリリングな切迫感と高揚感を醸し出す。その間、ピアノはどこまでも控えめで温かく優しい姿勢で、ヴァイオリンに寄り添いつづける。

それゆえ、オーソドックスな楽曲演奏を聴きなれた人にとっては、このCDでのシュトラウスやフランクの第1楽章はまるで別の曲に聴こえるかもしれない。それぞれの緩徐楽章のゆったり過ぎるほどの落ち着いたテンポ感には耳に馴染めないかもしれない。だがそれらの猜疑心は、やがてそれぞれの曲の終楽章にて、音楽すること自体の歓びと自由さを存分に楽しむかのような、奏者による起伏に満ちた演奏を聴くことで一気に解決するだろう。

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アメリカのクラシックピアノ界を代表する音楽家、ウィリアム・ギロックのピアノ作品集。全体に作曲者の曲想や作風を忠実に反映させた端正なまでに美しく軽快で歯切れの良い、透明感のある響きでセンス良くまとめられたピアノ演奏が目を引く。収録作品はひとつひとつが肩の凝らない短い曲で、長調が大半を占め、アメリカの情景漂うさまざまなスタイル、作風の曲が収められており、何度繰り返し聴いても聴く者を飽きさせない。

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OBSESSION

三舩優子、他

5:
☆☆☆☆☆
★★★★★

ピアノとドラムという異色のデュオによる、騒々しさや過激さとは縁遠い、格調高い研ぎ澄まされた本格的なクラシックの作品集。ピアノが速く小刻みに動くテンポの良い曲から、静寂と沈黙が支配する曲、民族風のメロディーやリズムが際立つ名曲に至るまで「動-静-動」の順で交互に様相の異なる曲が楽しめる。ピアノが終始リードし、ドラムがシンバルやコンボのように追従するが、途中で即興的なドラム・ソロの炸裂も堪能できる。

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(全8件)