メンバーズレビュー一覧

フライ・ムーン・ダイ・スーン / 黒田卓也

フライ・ムーン・ダイ・スーン

黒田卓也

5:
☆☆☆☆☆
★★★★★

 日本人で初めてジャズの名門ブルーノートと直接契約を結んだトランぺッター、黒田 卓也。
「絶対的な自然と人間の偉大なる卑猥さの妙」をテーマにしたと語る本作は、往年のソウル・ミュージックに触発された作品でもあります。
 遠くからかすかに聞こえる規則的な旋回音。それは次第に大きくなって行き・・・何とトランペットの音色だったんだと気づかされます。暗闇の中にほのかに差した光。それはやがて輝きを増し上昇していく・・・そんな神秘的なサウンドが展開する「Fade」は、ニヒルでビターなトランペットに、コーリー・キングのレイドバックしたソウルフルな歌声が絡む味わい深いナンバー。一転して「ABC」は、猥雑で賑やかなファンク。奔放かつ縦横無尽に突き進むトランペットがカッコ良いナンバーです。エキセントリックなピアノのフレーズで幕を開ける「Do No Why」は、コーリーのトロンボーンとのアンサンブルにリズム隊が加わった分厚いサビや、疾走感のあるトランペット・ソロが印象的なアップテンポ。この曲には、女性DJ/シンガーのYon Yonにマルチ・アーティストのMelrawがビートで参加した別テイクが収録されています。こちらはボトムの重いソリッドなビートがビシッと決まり、浮遊感のあるYon Yonが日本語等の多言語で歌い、ファンクもあり、メロウなポップスもあり、ロックもあるという混沌とした空気のナンバーに仕上がっています。不思議なことにこれが妙にクセになります。
 何処となくオリエンタルな雰囲気のサウンドをベースにトランペット&トロンボーンの分厚いユニゾンで攻め込む「Moody」は、中盤で見せるアグレッシブなトランペットが最高にカッコ良いファンク。女性シンガー Alina Engibaryanを起用した「Sweet Sticky Thing」は、オハイオ・プレイヤーズのカバー。深夜の街角を想起させるブルーでクールなサウンドをバックに、時にアンニュイに、時にしなやかに歌いあげるAlinaの歌声にトランペットが絡む、何ともムーディーでオトナなミッドテンポ。AORやブラコンが好きな人もハマりそうなナンバーです。
 昔ながらのオーセンティックなジャズには程遠い、ソウルフルでファンクネスなアルバムですが、時にはニヒルに、時には情熱的に、多彩な表情を見せるトランペットには痺れます。

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ケイジェイさんが書いたメンバーズレビュー

  • 1

(全6件)

Silence The 13th

Thomas Delor

4:
☆☆☆☆☆
★★★★★

フランスの新鋭ドラマー、トーマ・ドゥロールの2作目。ジャズに限らず、多くの音楽ではベースやドラムスといったリズム隊は必要不可欠な存在ながら、光がなかなか当たりにくいというジレンマがあります。ジャズの場合、トランぺッターやピアニストが率いるバンドは数多とありますが、ドラマーが率いるバンドというと・・・ジャズ歴の浅い僕にはアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズぐらいしか思い浮かびません(本当は結構あるんでしょうけど)。
 いやぁ、それにしても斬新です。トリオがドラムスにギター、ベースと、ジャズではリズム隊にあたるメンバーだけで構成されていることもあるのですが、ドラムスが際立つサウンド・・・正確に言うとドラムスもメロディーの一部を奏でているような、そんなサウンドなんです。
 決してキャッチ-なサウンドではないので、最初は「とらえどころがない」という印象を持つ方が多いと思いますが、聴けば聴くほど味が出てくる深みのある楽曲ばかりです。何よりも「ドラムスってこんなに表情豊かななんだ」と気づかされるほど、多彩な奏法に驚きます。彼のライブを一度観たことがあるのですが、ドラムスティックのほかにマレット、ブラシを使い分け、さらには手指で皮の表面を触りながら繊細な音を出すなどドラムスを知り尽くしているという印象を受けました、
 数学の博士号も持つという異色のドラマー。今後の活躍が楽しみです。

0

OZONE 60 -STANDARDS-

小曽根真

5:
☆☆☆☆☆
★★★★★

 2021年3月の還暦を機にリリースしたピアノ・ソロ作品。ジャズ・ピアニストとしてデビューしながらも、クラシックにも造詣が深く、国内外のクラシック楽団と数多く共演してきた小曽根らしく、クラシック編とジャズ編の2部で構成され、しかもスタインウェイD型とヤマハCFXで弾き分けるという企画。
 クラシック編は、ラヴェルの「ピアノ協奏曲 第2楽章 ホ長調」でスタート。本来ならストリングスや管楽器などオーケストラがバックにいる曲を、何とピアノ・ソロで演奏。
 続く「Departure」は、オリジナル曲。どこか不穏な空気をまとったメロディーが緩やかに流れて行きます。物悲しくもミステリアスな展開に魅かれます。
 また、モシュコフスキの「20の小練習曲 作品91」から2曲が選曲されていますが、これがいずれも秀逸です。
 ジャズ編は、ブルージーで軽やかなアップテンポ2曲でスタート。冒頭の「Gotta Be Happy」は、朝焼けを思わせる爽やかで穏やかなバラード風のイントロから一転、弾むようなタッチで明るく溌溂としたフレーズで駆け抜けて行きます。変幻自在かつ縦横無尽なピアノに圧倒されます。「Need To Walk」は、何やら妖しげな低音のフレーズから始まりますが、次第に明るさを増していくとウォーキング・テンポで軽やかに流れて行きます。
 出色は、「Listen... (for Misuzu)」(耳を澄ませて…)。穏やかで慈愛に満ちたメロディーに心が洗われるバラード。まるで深い悲しみさえもすべて受け止めしてしまうかのような包容力を感じさせます。静かに思いを込めて奏でられたピアノの音色は深く心に染み込んで行きます。
 神戸北野への思いを寄せた「Struttin' In Kitano (dedicated to "SONE" )」は、おどけた主旋律が軽やかに舞う軽妙洒脱なナンバー。「オベレク」は、ポーランド民謡マズルカの1スタイル。情熱的でスリリングなフレーズが次々と繰り出されます。そして最後はバラード「誰かのために」。ポツリポツリと内省的に演奏されるナンバーですが、穏やかで深みのあるメロディーが胸を打ちます。
 還暦を迎えて円熟味を増しながらも、他方では還暦を迎えてもなお新境地を切り開こうとしている小曽根 真のひたむきな姿勢がひしひしと伝わってくる1枚です。

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Early Riser

Taylor McFerrin

5:
☆☆☆☆☆
★★★★★

 ジャズは進化を続ける音楽。21世紀も四半世紀が経とうとしている今もそれは変わりません。そのことを実感させるアーティストの1人が、この人、テイラー・マクファーリン。
 往年のジャズの痕跡など何処にも見当たらない、独創的でフューチャリスティックな音の空間。一歩どころか、10歩も20歩も進んで行ってしまったかのような斬新なサウンドに驚かされます。
 遥か遠くからやって来る静謐だが無機質な音波。それが近付いてくると、どこか懐かしい温もりを持ったギター・リフのループとなり、エコーを効かせたコーラスの波と一体化して、聴く者を包む込んで行く・・・いつしかバックではノイジーにうねるキーボードとグルーヴィーなドラムス。その何とも言えない心地良さに浸っていると、いつしか無音の静寂に。そんな深遠で神秘的な「Postpartum」を聴いただけでも、彼がジャズをリスペクトしつつもジャンルにこだわらないクリエイターであることがわかります。
 Delegationの「Oh Honey」のヒット曲を思わせる穏やかな波長でスウィングするフューチャリスティックなシンセ・サウンドが心地良い「Florasia」は、甘美なのにどこか陰のあるメロディーと、つぶやくように歌われる内省的なテイラーのヴォーカルが調和し、ゆったりとしたスウィング感が心地良い習慣性の強いナンバー。
 疾走感のある「Already There」は、ギターとキーボードが奏でるメロディアスで未来志向のサウンドと、軽快でソリッドなビートが絶妙のバランスで融合したクールなアップテンポ。最高にカッコ良いです。スピリチュアルなエミリー・キングの歌声で幕を開ける「Decisions」は、ゲーム音楽を思わせるコンピュータ・サウンドと、エコーを効かせたソウルフルなコーラスが交錯する深遠にして斬新なナンバー。
 深い原生林の中を思わせる神秘的なサウンドと、宇宙空間を思わせるフューチャリスティックなシンセ・サウンドが交錯する「Invisible/Visible」では、父ボビー・マクファーリンも参加。そして終盤には、グルーヴィーなベースと流麗なピアノを起用したスタイリッシュなジャズ・サウンドが展開します。
ジャズとヒップホップの融合レベルを飛び越え、あらゆる音楽を飲み込んで今までにない音楽を生み出す・・・そんなスケールの大きな独創力を感じさせます。

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フライ・ムーン・ダイ・スーン

黒田卓也

5:
☆☆☆☆☆
★★★★★

 日本人で初めてジャズの名門ブルーノートと直接契約を結んだトランぺッター、黒田 卓也。
「絶対的な自然と人間の偉大なる卑猥さの妙」をテーマにしたと語る本作は、往年のソウル・ミュージックに触発された作品でもあります。
 遠くからかすかに聞こえる規則的な旋回音。それは次第に大きくなって行き・・・何とトランペットの音色だったんだと気づかされます。暗闇の中にほのかに差した光。それはやがて輝きを増し上昇していく・・・そんな神秘的なサウンドが展開する「Fade」は、ニヒルでビターなトランペットに、コーリー・キングのレイドバックしたソウルフルな歌声が絡む味わい深いナンバー。一転して「ABC」は、猥雑で賑やかなファンク。奔放かつ縦横無尽に突き進むトランペットがカッコ良いナンバーです。エキセントリックなピアノのフレーズで幕を開ける「Do No Why」は、コーリーのトロンボーンとのアンサンブルにリズム隊が加わった分厚いサビや、疾走感のあるトランペット・ソロが印象的なアップテンポ。この曲には、女性DJ/シンガーのYon Yonにマルチ・アーティストのMelrawがビートで参加した別テイクが収録されています。こちらはボトムの重いソリッドなビートがビシッと決まり、浮遊感のあるYon Yonが日本語等の多言語で歌い、ファンクもあり、メロウなポップスもあり、ロックもあるという混沌とした空気のナンバーに仕上がっています。不思議なことにこれが妙にクセになります。
 何処となくオリエンタルな雰囲気のサウンドをベースにトランペット&トロンボーンの分厚いユニゾンで攻め込む「Moody」は、中盤で見せるアグレッシブなトランペットが最高にカッコ良いファンク。女性シンガー Alina Engibaryanを起用した「Sweet Sticky Thing」は、オハイオ・プレイヤーズのカバー。深夜の街角を想起させるブルーでクールなサウンドをバックに、時にアンニュイに、時にしなやかに歌いあげるAlinaの歌声にトランペットが絡む、何ともムーディーでオトナなミッドテンポ。AORやブラコンが好きな人もハマりそうなナンバーです。
 昔ながらのオーセンティックなジャズには程遠い、ソウルフルでファンクネスなアルバムですが、時にはニヒルに、時には情熱的に、多彩な表情を見せるトランペットには痺れます。

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儚くも鮮やかで、美しくも哀しく、和の美を凝縮したような透明感のあるピアノに心が洗われます。
神秘的で心癒される作風で世界的にも高く評価されている松居慶子の98年発表作。
美しくも冷ややかで神秘的なピアノが静寂を突き破り、和笛のように繊細で感傷的なサックスと絡む「Night Hawk's Dream」。鮮やかで儚いメロディーから、時に激しいまでの情念を感じさせるフレーズもあり、心が震えます。「Steps In The Night」は、軽やかにステップを踏みながらも、美しくも哀しいフレーズが胸に染みます。AORやフュージョンが好きな人も琴線に触れるのではないでしょうか。
「Full Moon And The Shrine」は、タイトルどおり、澄み切った夜空に浮かぶ満月と静かな佇まいの社を想起させるクリスタルで神秘的なバラード。静謐で切ないほどに美しくドラマティックなピアノに心洗われます。「Forever, Forever」は、穏やかで温もりのあるピアノに思わず涙腺が緩みます。深い優しさと慈愛に満ちた素晴らしいナンバーです。
この他にも情熱的でラテンの香り漂うアップテンポの「Southern Crossings」、朝焼けのように爽やかで穏やかなサックスとのコラボレーションに癒される「Legend Of The Trees」、美しくも繊細で物悲しい「Presence Of The Moon」など、心に訴える楽曲の数々。
5歳の頃からピアノを弾き始め、学生時代から国内外で演奏活動を行い、これまでに3枚のアルバムがビルボードのコンテンポラリー・ジャズ・チャートで1位を記録。本作もスムース・ジャズ部門の年間総合売上3位。そんな輝かしい業績もさることながら、深く心に響くピアノの調べにいつまでも身を委ねていたい・・・そんなアルバムです。

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 こんなに素晴らしい歌声、歌力なのにどうして1枚しかアルバムを残せなかったのか・・・そう思わずにはいられません。オラン・ジュース・ジョーンズ、テイシャ―ンに続くデフ・ジャムの大型シンガーとしてデビューしたチャック・スタンレーの唯一のアルバムがこちら(87年リリース)。
 オルゴール音のようなシンセのループなどぜい肉を削ぎ落したシンプルなサウンドに打ち込みビート。そこにパワフルで高音域まで一気に駆け上げるチャックのスタンレーが乗っかるタイトル曲「The Finer Things In Life」で、早くも「これは!」と期待を抱かせます。続く「Jammin’To The Bells」もシンプルなサウンドにソリッドな打ち込みビートというスタイルは変わりませんが、こちらは少しBPMを落とし、スリリングなメロディーでじわじわと盛り上がっていきます。何となくミッドナイト・スターを思わせるのですが気のせいでしょうか。ファンクが続いた後は、ビート・バラードの「My All And ALL」。フュージョン~AORっぽいライト・メロウなナンバーですが、穏やかな中にも郷愁を誘うメロディーが印象的です。
 さらに、秀逸なのが中盤。「Real Soon」では、愁いを帯びたメロディアスなシンセ・サウンドとソリッドなビートに乗ってチャックが情感たっぷりに歌い上げています。泣きのギター・ソロもイイです。「When It All Falls Down」は、爽やかな雰囲気のビート・バラード。美しくほのかに感傷的なメロディーが印象的。ピュアに歌い上げるチャックの歌声も胸に染みます。そして「Day By Day」。コンチネンタル・フォーの名曲のカバーですが、これが絶品! ハイトーンを活かした感傷的なシャウト、モダンにアレンジされたサウンドが一体となって、この上なく甘美でドラマティックなナンバーです。
 終盤では、夢見心地のメロディーを包み込むように歌い上げた「Never Gonna Let You Go」、そして、何と言ってもアリソン・ウィリアムスとのデュエット「Make You Mine Tonight」でしょう。凛とした美しさを響かせるピアノをバックに情感たっぷりに歌い上げられるドラマティックで壮大なバラード。二人の歌力に圧倒されます。サックスのソロも泣けます。

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(全6件)