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第38回 ─ FUSION

連載
Di(s)ctionary
公開
2009/06/17   18:00
更新
2009/06/17   18:13
ソース
『bounce』 310号(2009/5/25)
テキスト
文/出蔦考次

さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!

I フュージョンの成り立ちと特徴


  さて、今日の講義はフュージョンです。諸君はフュージョンという音楽にどんなイメージを抱いているかな……えっ、耳馴染みの良い爽やかなインスト? マニアが喜びそうなテクニック重視の音楽? F-1中継のBGM? 確かに日本でもっとも著名なフュージョンの曲はTHE SQUARE(現T-SQUARE)の“TRUTH”だろうね。一方では、ケニーGのような人のポップな親しまれ方や、〈ジャコパスの演奏がさ~〉とかいうマニアックな語られっぷりの印象も強いってことかな? さて、ここで判明したのは、フュージョンっていう音楽がまさに両極端なイメージを内包してるってことだね。お手軽で軽薄と見られたり、職人的で難解だと敬遠されたり……このおもしろい状況は、フュージョンそのものの成り立ちに深く関係しているんだ。


  フュージョン=融合だけど、何でも融合すればいいわけじゃなく、この場合はジャズに何か(主にロックやソウル/ファンクなど)を結び付けたものってこと。一般的にはマイルス・デイヴィスが『Bitches Brew』(69年)でエレクトリック化を踏まえて試みた、ジャズとロックとファンクとアフリカ音楽などの融合を起点とすれば話が進めやすい。で、その時期のマイルス配下にいた敏腕プレイヤーたち──ハービー・ハンコックやチック・コリア、ジョー・ザヴィヌルらが、個々の作品でジャズと他の音楽を意欲的にクロスオーヴァーさせていく。そこからフュージョン像らしきものが徐々に形成されていったんだ。そう、70年代後半になるまで、こうしたサウンドはそのまま〈クロスオーヴァー〉と呼ばれていたんだ。もちろんマイルス組以外の人たちもその動きに呼応していて、特に重要なのはCTI(と系列のクードゥー)による当時のソウルと融合した作品の流れで、オシャレ音楽としてのフュージョンの原型はそのあたりになるね。

 つまり、クロスオーヴァー~フュージョンというのは、60年代末~70年代初頭のロックやソウルで起こった革新的な動きのジャズ版だと言えるし、人材のジャンルを超えた横断もこの頃に盛んになったんだ。ただ、歌モノなどの親しみやすい楽曲が脚光を浴びていくにつれて、80年代以降は〈フュージョン〉という音楽のフォーマットがある程度定まってしまった部分はあるね。ここではその型が出来上がるまでの作品を紹介しておくよ。

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