さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!
I ドゥワップの成り立ちと特徴
早速〈ドゥワップ〉の講義を始めるよ。この珍妙な呼称のジャンルをまず大雑把に説明するとだね、50年代初頭から60年代初頭にかけてUSで隆盛した黒人コーラス・グループの俗称、って感じになるかな。〈リード・ヴォーカル&バック・コーラス+簡素な楽器演奏〉というのが基本公式だけど、その特徴であり最大の魅力は〈ドゥワッドゥワッ〉とか〈シュビドゥビ〉とか〈ワッパドゥ〉といった、それ自体に意味を持たないスキャットを繰り返すコーラスにあるといっていい。つまりドゥワップという呼び名そのまんまなわけだ。後のソウルで見られる高度なコール&レスポンスのようなものは少なくて、総体的にはシンプルなコーラス形態といえるね。
初期は泥臭いジャンプ・ナンバーやムーディーなバラードが主流だったけど、50年代半ばからはロックンロールと呼応するようなビート感溢れるアップ・チューンやロマンティックなラブソングなど、より若者向けのサウンドが多くなっていくんだ。そして50年代後半には黒人グループへの憧憬を露わにした白人ティーンたちによる〈ホワイト・ドゥワップ〉も登場して、チャートを賑わせはじめたんだよ。
ドゥワップ・グループの多くは、ダウンタウンの街角などで練習をしていた〈金はないけど夢はある。楽器はないけど声はある〉って感じの、素人同然の少年が中心だったんだ。ドゥワップが別名〈ストリート・コーナー・シンフォニー〉と言われる由縁だね。まぁ、夢といっても大概が女の子にモテたいとか小遣いを稼ぎたいとかのレヴェルなんだけど……。だからシングル1枚で消えちゃったような連中も星の数ほどいるわけ。そうしたなかで少なからずプロフェッショナルな志を持ったグループは、独自のカラーを模索しながら数々の名曲を歌い上げていったんだ。2時間目ではそんな歴史的グループを紹介しよう。おっとチャイムだ、起立、礼、ドゥワーッ♪