〈テクノ〉と〈エレクトロニカ〉の違いって何だろう。もしかしたら、日常に寄り添う〈テクノ〉が〈エレクトロニカ〉なのかもしれない。ビートよりもメロディー、そして、どこかアコースティックな感覚。例えばアイ・アム・ロボット・アンド・プラウドの最新作『Uphill City』からも、クラブよりワン・ルームにぴったりの優しいエレクトロなサウンドが聴こえてくる。
「毎日、少しずつ曲を書いているんだ。ある意味、日記みたいなものかもしれないね。アルバムの制作過程で、そこから10曲を選び出してかたちにしていくんだけど、その時に共通したテーマみたいなものが見えてくるんだ」。
アイ・アム・ロボット・アンド・プラウドはトロントで活動する中国系カナダ人、ショウハン・リームのソロ・ユニット。初めて日本盤でリリースされる『Uphill City』は、彼にとって4枚目のアルバムだ。
「アルバム・タイトルの〈アップ〉という言葉には2つの意味がある。〈積極的に物事に向かって行く〉という意味と、〈物事を達成するには努力しなければいけない〉という意味。都市で生活するにはその両方が必要だと思っているから、今回のアルバムのテーマにしたんだ」。
そんなコメントを聞くと、エレクトロニカという音楽が都市生活者のリヴィング・ミュージックのようにも思えてくる。実際、このアルバムは、ショウハンの自宅のリヴィングでレコーディングされたらしい。
「自宅でのレコーディングは、時間の制限がないのが一番いいところだと思う。スタジオを使うと時間が気になって焦ってしまうけど、自宅ならアイディアをとことん煮詰めて、それを作品にすることができるからね。僕はいい機材を使うことよりも、どれだけ時間を自由に使えるかに重点を置いて曲を作ってるんだ」。
自宅でリラックスしながら、じっくりと曲を作り上げていく。まるで大切なプラモデルに夢中になる子供みたいな無邪気さは、サウンドにもちゃんと反映されている。とりわけ人懐っこいメロディーは、アイ・アム・ロボット・アンド・プラウドの大きな魅力だ。
「僕はゲームをしているみたいな感じで楽しみながら音楽を作ってるから、その楽しさがメロディーにも表れているんだと思う。リズムとかベースにこだわりを持つミュージシャンもいるけど、僕は音楽を聴く時は常にメロディーを中心に楽しんでるし、音楽を作る時にもやっぱりメロディーを重視してるからね」。
そんなショウハンは『songs of seven colors』に新曲とレア・トラックの2曲を提供。なかでも新曲“One, Two, Three, Four, Five, Six, Seven”は、虹の〈数〉にインスパイアされて作ったらしい。
「最初に虹というテーマを聞いた時に、色をイメージして書くよりも、色の数(7色)で書いた方が面白いと思った。それで7分の4拍子で曲を作ってみたんだ」。
そうした遊びごころが、彼の生み出すサウンドをチャーミングにしているに違いない。最後にそのユニークなユニット名について、ショウハンはこんな風に説明してくれた。
「もともとは、鉄腕アトムのグッズに〈I am robot and proud〉ってプリントされているのを見て、このユニット名をつけたんだ。この言葉には2つのイメージがあると思う。まず、〈I am robot〉はテクノロジー的なイメージだよね。そして〈and proud(誇り)〉には、人間的なイメージを感じる。人間はその両方のイメージを持ち合わせているんじゃないかな。例えば(ショウハンと筆者のあいだに置いてある)このテープレコーダーを見てると、2つの丸いツマミとその下の線が顔に見えてきたりするよね。そうやって機械的のもののなかに人間的なものを見出すのは、人間が本来持っている感受性じゃないかな」。
テクノロジーの向こうに見えてくるヒューマニティー。それってまさにショウハンのサウンドのテイストそのままだ。〈アイ・ラヴ・エレクトロニカ・アンド・プラウド〉――新作やコンピの収録曲からは、そんなショウハンの心のつぶやきが聞こえてくるような気がした。
▼アイ・アム・ロボット・アンド・プラウドの作品
2005年作『The Electricity In Your House Wants To Sing』(Darla)
▼関連記事
・カナダを拠点に活動するエレクトロニカ・アーティストI AM ROBOT AND PROUD、日本デビュー・アルバム『Uphill City』を9月17日にリリース。(bounce.com ニュース/2008年8月26日付)