これはもう絶好のタイミングでの邦訳だと言えるし、そうでなくても音楽ファンなら読んでもらわなければ始まらない。ロブ・ボウマンが深い愛情と綿密な取材によってスタックスの20年史を追った著書「Soulsville U.S.A. The Story Of Stax Records」(97年)が「スタックス・レコード物語」として刊行されたのだ。一軒のレコード店が人々の奮闘と優れたアイデアによって奇跡を連発していく60年代の話も当然おもしろいのだが、70年代以降のメチャクチャなドラマこそ読み込まれてほしい。沈んでいく船とそこに残った人々の、最後の日々の異様な美しさといったら……。数年前に邦訳された「スウィート・ソウル・ミュージック」も名著だが、本書の主役はスターたちではなく、その後ろで音楽に愛を捧げた裏方たちなのだ。