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第29回 ─ AOR

連載
Di(s)ctionary
公開
2008/08/07   03:00
更新
2008/08/07   20:55
ソース
『bounce』 301号(2008/7/25)
テキスト
文/金澤 寿和

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I AORの成り立ちと特徴

 AOR=アダルト・オリエンテッド・ロック、つまり〈大人のロック〉である。ただし、それはよくある懐メロ的なクラシック・ロックを指すのではなく、オトナのライフスタイルに似合う音ということ。BGM的効用を持ちながら、なおかつジックリ聴き込むに値するクォリティーを兼ね備えている、それがAORだ。

 そもそもAORは、USで〈アルバム・オリエンテッド・ロックorラジオ〉の略称として誕生し、70年代後半のコンテンポラリーなロッ ク、例えばボズ・スキャッグスやスティーリー・ダン、フリートウッド・マックのようなタイプのアーティストの音楽に使われた。日本ではソフト&メロウやシティー・ミュージックと呼ばれたが、それが80年代に入ってアダルトに読み替えられ、都会的で洗練されたロックというイメージが出来上がった。現在のUSでは、〈アダルト・コンテンポラリー〉というジャンルが日本のAOR観にもっとも近い。一方、ヨーロッパにおける〈AOR〉は日本でいう〈産業ロック〉に近く、日本でいうAORはウェストコースト・ロックと称される。

 音楽的には、いわゆるポップ・ロックに属するが、そのキーポイントはハイブリッドなミクスチャー・サウンドにある。人間も成長と共に世界観が広がるように、AORもジャズやソウル、ディスコ、フォーク、カントリー、ボサノヴァなど、さまざまなエッセンスを高いレヴェルで昇華している。とりわけジャズやソウルからの影響は絶大。そしてそのミ クスチャーの配合の相違がアーティストの個性に繋がっているのだ。ジャンルの適用範囲が広範でファジーなのも、それが理由。AORの持つ甘美なコード感や哀愁味溢れるメロディー、ロマンティックなテイストは、その融合の結果もたらされたものなのだ。

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