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第27回 ─ MPB

連載
Di(s)ctionary
公開
2008/05/29   23:00
ソース
『bounce』 299号(2008/5/25)
テキスト
文/佐々木 俊広

さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!

I MPBの成り立ちと特徴

 今日の講義は〈ブラジル音楽〉の項に何度も出てくる〈MPB〉について。これは〈ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ〉の略で、訳すと〈ブラジルのポップス〉ってことになるね。この言葉は60年代後半のポスト・ボサノヴァ期にTVで企画された、素人やセミプロ参加型によるコンクール形式の音楽番組がルーツで、〈ボサノヴァ以降〉の人たちの音楽を指す言葉として、メディアが使い出したわけだね。

その番組には新人のカエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジル、ミルトン・ナシメントなどが出場していたんだけど、サイケ期のビートルズなど海外の音楽の影響をモロに享受した彼らは、それまでダサいとされていた自国の伝統的なリズムやハーモニーをミックスさせたサウンドを作りはじめたんだ。バイーア出身のカエターノやジルらは演劇&美術界も巻き込んだ運動〈トロピカリズモ〉を起こし、ミナス出身のミルトンたちはヒッピー文化からの影響が濃いコミュニティー〈街角クラブ〉を作って、〈ブラジルらしさを取り戻そう!〉という働きを行っていく。そして彼らの存在はボサノヴァ以降のムーヴメントとして広く認知されていくんだけど、MPBとはそんな志向を持つ音楽家を括る言葉として定着するんだね。

MPBの特徴を簡単に説明すると、サンバやボサノヴァや欧米ロック~ポップスなどを呑み込んだ、ブラジル的な要素の濃いハイブリッドな音楽だと言っても良いね。一風変わったコード展開やメロディー使いを披露する独特な楽曲が多いことも挙げられるかな。あとその時代ごとの〈新しい要素〉を付け加えて音楽を作るという流儀、これもMPB作品に触れるうえで重要なポイントだね。それじゃ次は、どこにもないものを作り出そうという気概に溢れたオリジネイターたちを紹介していこうか。

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