革新的でコアなブレイクビーツ作品を量産し、独特の求道的なイメージも手伝って世界中のヘッズから厚い支持を集めてきたニンジャ・チューン。だが、そんなかつての勇姿さえも残像に変えながら、彼らはどんどん新たなフェイズへと向かっている! ならば、その現在の姿をすぐにでも捕獲すべきだろう。忍者はいつまでも同じ姿で同じ場所に留まりはしないものだから……
コールドカットによって90年に設立され、活動当初はヒップホップを根幹に持つブレイクビーツ作品をリリースしていたニンジャ・チューン。そのスタイルを発展させた90年代中期に、彼らがモ・ワックスと並んでアブストラクトやトリップ・ホップの隆盛に貢献してきたことは、いまなお鮮明な記憶として残っている人も多いはずだ。が、それ以降のニンジャはドラムンベースやテクノなども吸収した作品をラインナップに加え、徐々に現在にまで至る多様な側面を覗かせていくことになる。
リリースされる作品はどれも高いクォリティーをキープしつつ、流石にニンジャ・チューンの名前だけで集約するのが困難になったのか、あるいはコールドカットの気まぐれなのか、97年には実験的な色合いの濃いヒップホップをリリースするサブ・レーベル=ビッグ・ダダが始動。ルーツ・マヌーヴァやTTC、ディプロ、スパンク・ロックなどクセのあるキャラクターを次々とシーンに送り込み、設立から10年経ったいま、本隊ニンジャに迫る期待が注がれている。また2006年にはスーパー・ヌメリの構成員であるポップ・リーヴァイのシングルを皮切りに、ロックへアプローチする新レーベル=カウンターも立ち上がり、新たなリスナー層を開拓中だ。
ストイックな世界観を提示してみせた黎明期から進化を遂げ、レーベルとしての間口を広げて成熟した姿を見せるニンジャ・チューン。このたびリリースされたのは、そんなレーベルの過去と現在を集約した名物シリーズ〈Ninja Cuts〉の第5弾『They Don't Know : Ninja Cuts』だ。先述の傘下レーベル音源も含むこのコンピには、シネマティック・オーケストラやMrスクラフをはじめとする主要な面々の未発表/初CD化トラックなどが満載されている。また、ブレイクコア~ダンスホール~ダブ・ステップを操るバグや、ドラムンベース・シーン注目の超新星であるケミスツなど、アルバム・リリースが待たれるアーティストの音源もいち早く収録されており、このコンピを契機にニンジャはまたひと暴れしてくれそうな気配なのだ。
(青木正之)
▼それまでのニンジャ・チューンを総決算したコンピ。
▼2008年リリースのニンジャ・チューン作品。