II では、実際に聴いてみよう
『The Wild, The Innocent & The E Street Shuffle』 Columbia(1973)
デビュー作は〈第二のボブ・ディラン〉を作ろうとするレーベルの意向があって、ハンパな出来だったんだ。そのフラストレーションから生まれたのがこの2作目。Eストリート・バンドの原点だ。これを聴けば彼らがとんでもない音楽的素養を持っていたことが理解できると思う。ロックンロールの最高峰と言われているけど、誰にも似ていないカオスがすでに完成しているんだ。ジャズとかファンクとかソウルとかがゴチャ混ぜになっていて……ヒドすぎる。リスナーを無視した最高の作品だな。
『Born To Run』 Columbia(1975)
ロックンロールの超名盤みたいに言われてるけど、ロックンロール・ナンバーはあまりない。当時レコードは売れないけどライヴに定評のあった彼らが、ステージの熱をどう伝えようか悩んだ末に、映画を作るようにひとつの物語を練り上げていったんだ。青春の輝きをそのまま封じ込めた一枚。
『Darkness On The Edge Of Town』 Columbia(1978)
前作『Born To Run』と同じようなものを出せば一生食っていけるのに、ボスは暗くてヘヴィーなアルバムを作ったんだ。1曲ずつが独立した短編小説みたいになっていて、いわゆるスプリングスティーンのスタイルが完成された。物語を音で聴く、みたいな感じかな。
『The River』 Columbia(1980)
ダークな前作から一転、陽気なリズム&ブルースばかりを2枚組に詰め込んだ作品。しかも、スタジオ・ライヴっぽく録音したから、勢いの良さが凄いの何のって! ライヴとレコーディング作品は違うと気付いたボスが意識して作ったのが『Born To Run』なんだけど、一方でやっぱりライヴ・バンドとして愛されているわけだから、〈ならばリスニング用のもので、それをやってやろうじゃないか!〉と思ったんだろうね。リズムは走るわ、チューニングは合ってないわ、間違えるわ……でもメンバーはそんなことお構いナシ。ロックンロールはそういうことじゃないんだよ、ゴキゲンならいいじゃないか、と。アメリカでの評価も高いし、ファンの間でもコレをベストに挙げる人が非常に多い。バンドのキラキラ感がもっとも出ているアルバムだ。
『Born In The U.S.A.』 Columbia(1984)
映画的なストーリーにロックンロールという手法を使ってダイナミックなサウンドを作るという彼ららしい楽曲と、深刻な社会問題に真っ向から挑んだ詞をギュッと1曲に封じ込めることができて、しかも全収録曲でそれを実現させてしまったお化けアルバム。しかし、ドラムが真ん中という基本は変わらない。ロックンロールってビートだし、ダンス・ミュージックなんだよ。ギリギリのところで抑制している音がもっとも破壊力を持っているということが、ここでの演奏を聴けばわかるはず。全編に渡って音はスカスカで、みんな何ひとつ難しいことはやっていない。それなのに物凄くロックンロール。ロックンロールはスカスカな音楽です、と本作が証明したんだ。
『Live/1975-85』 Columbia
〈Eストリート・バンドって何?〉と思ったら、このライヴ・アルバムを聴けばいい。これを聴いてしまうと、Eストリート・バンドの凄まじさや、ライヴでの演奏がスタジオ作品では再現できないこともわかる。リリース当時はレコード5枚組だったんだけど、このヴォリュームを一気に聴けるか聴けないかで、真のロック好きかそうでないかを見極められる。つまり踏み絵としても重宝する作品なんだよ。とにかく客がずっとうるさい。みんな歌うしね。でも、それもひっくるめてロックンロールなんだ。何度聴いても痺れるよ。
『Live In New York City』 Columbia(2002)
14年ぶりにバンドが集結。NYでギニア人の留学生が5人の警察官に撃たれて死亡した事件を元にした“American Skin”を、同じNYで演奏したことが意義深い。ボスは不条理なことに我慢できないんだね。それでふたたびEストリート・バンドの音が必要になったんじゃないかな。
『The Rising』 Columbia(2002)
このレコーディング中に〈9.11〉が起こってしまった。で、こういう人だからほぼ曲を書き換えて発表したんだ。バックはもちろんEストリート・バンドが演奏しているんだけど、本作にはバンド特有のキラキラ青春ロックな香りがしない。ルーツ・ミュージック寄りで、ヘヴィーな仕上がりだ。