スプリングスティーンの新作に合わせて、今月は緊急補習を開講だ!
I ブルース・スプリングスティーン・アンド・ジ・Eストリート・バンドの特徴
今日は危険なロックを君たちに伝授しよう。お題は〈ブルース・スプリングスティーンとEストリート・バンド〉だ。〈落ち着いちゃったヴェテランには興味ない〉だと? 確かに90年代のボスはフォーク作品ばかりを発表していたけど、ニュー・アルバム『Magic』は最高にロックしているんだよ。どうして今作がヤバイかというと、それは〈Eストリート・バンドとガッツリ組んだ作品〉だからなんだ。
そもそもバンドのメンバーは、ニュージャージーのアズベリーパークという狭い街でウロウロしているチンピラだった。音楽しかやることがないわけ。要は遊び仲間なんだけど、そんな彼らの結束力はハンパじゃない。連中は移民の子孫で、人種の壁はなく、男も女もいる。非常に珍しいことなんだけど、重要なポイントだな。デビュー時にボスは条件として〈バック・バンドを地元の奴らにやらせるなら契約する〉って言ったんだ。仲間意識と郷土愛に溢れるスプリングスティーンらしいエピソードだろ? で、なぜ彼らが最強のバンドかというと、ボスの詞世界や歌をもっとも効果的に表現するにはどうすればいいかを考え抜いてアレンジしているからなんだ。各々がプレイヤビリティーを発揮してエゴを出すって発想じゃない。一個の塊であって、その大きさと凄まじさが……(熱血トークが30分以上続く)。
気を取り直して、このバンドには特徴がある。キーボードが2人いて、サックスや女性コーラスもいて……そのとおり! ロック・バンドとしては異質の編成だ。でも、それでロックンロールをやっている。ドラムが真ん中にあってサックスと鍵盤を映えさせるのは、完全にリズム&ブルースだよな。彼らの音は〈パンク・ソウル〉と形容されることもある。50~60年代の黒人音楽のスタイルを踏襲していて、でも当時そんな時代遅れなことは誰もやっていなかったからユニークなんだよ。結局は良き伝統主義者なわけだ。
Eストリート・バンドと組んでないボスの作品は駄作が多い。良い曲もあるし、悪くはないんだけど……比べてしまうとね。やっぱりお金で一流のプレイヤーを集めても〈Magic〉は起こらない。深い友情や信頼関係があってこそ起こる〈Magic〉。それを実現できるのがEストリート・バンドなんだ。
▼バンド・メンバーの作品を紹介。