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第18回 ─ BURBANK

連載
Di(s)ctionary
公開
2007/10/18   23:00
ソース
『bounce』 291号(2007/9/25)
テキスト
文/鈴木 惣一朗

さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!

Ⅰ バーバンクの成り立ちと特徴

 前置きなしで始めますよ。今回のテーマは〈バーバンク〉。これはLA郊外にあるワーナー・ブラザーズの本拠地名にちなんで付けられた俗称で、60年代半ば~70年代末にレニー・ワロンカーという同レーベルのA&R担当が中心となって仕掛けたサウンドのことを指します。まずこのサウンドが生まれた背景を説明しておくと、50年代のアメリカにはロックンロールなんだか、カントリーなんだか、リズム&ブルースなんだかよくわからない音楽がいっぱいあったんだ。ほら、多民族国家だからブルースを聴いていてもジャズの要素が入ってくるし、カリプソだっていろんなところにまぎれ込んでしまうわけ。で、60年代に入るとレコード屋が便宜上〈カントリー・ロック〉や〈ソフト・ロック〉などジャンルを区分けしていったんだけど、レニーは例えばカントリーだけをやるのはダサイって気付いてしまった。だからこそ、彼はいろんな音楽を混ぜてみようと試みたんだ。つまり、バーバンクってミクスチャー・ロックの典型と捉えることもできるかな。

 音の特徴は、50年代以前のエッセンスを採り入れていることと、当時のロックでは扱われなくなった各種民族楽器やストリングスをふんだんに使用したこと。これらの楽器は通常のロック・フォーマットでは古すぎるとされていたんだ。これは個人的な意見だけど、レニーはヴェトナム戦争以降にみんなが捨てようとしていたアメリカのルーツを忘れるなみたいなことを、音楽を通じて問い掛けていたんじゃないかと思う。ともかく、このような音を作るために彼は仲間を集めてチームの鉄壁を固めるわけですよ。それがヴァン・ダイク・パークスやランディ・ニューマンなんだけど、実は彼らはレニーの幼馴染みでもあるんだ。バーバンク特有の温かさは、そんな家族的な信頼関係の賜物かもしれないね。