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第3回 ─ 倖田來未“You/Sweet Kiss”をチアー&ジャッジ

第3回 ─ 倖田來未“You/Sweet Kiss”をチアー&ジャッジ(2)

連載
菊地成孔のチアー&ジャッジ ―― 全ブロガー 参加型・批評実験ショー
公開
2005/12/08   17:00
更新
2005/12/08   21:21
テキスト
文/菊地 成孔

■倖田來未 “You/Sweet Kiss”

  〈ギャル〉という、今や年齢制限(拡大解釈すれば性別の壁さえ)を廃絶した、女性全体の中に於ける巨大な文化趨勢。そして、そのギャル文化すら越えて、今や我が国の全国民を覆っている〈エロカワイイ〉という概念の発生と定着の歴史は如何なるものであったか? 〈エロくない、カワイイ〉、〈エロい、カワイクない〉、〈エロくないカワイクない〉少女の存在をイメージするとき、我々は、我が国の少女性における〈エロカワイイ・ファシズム〉の巨大さに圧倒されるだろう。

 メイドからギャルまで、風俗嬢からコンビニの店員まで、40歳代の母から10代の妹まで、彼女達は他の価値観原型を持たない。クリスチャン・ディールが〈高級ギャル服〉であることを選択してから幾星霜。パリ・モードに於けるいくつかの伝統的なメゾンが〈コスプレ/ゴスロリ〉に触手を伸ばそうとしている現在から、やがて発展的には〈ギャルでメイド〉発生に至った時、価値観は完全な全体主義を迎えるだろう。

  そして、多くの価値観がそうであるように、歴史的発展を経て(自らのコピーを渋谷109から量産する。という、ギャル・ジュラ紀に於ける先人、安室奈美恵からブリテリ、ヤマンバ、egg休刊。といった氷河期を経由して、既にこの〈エロカワ〉の歴史は、風俗史横断的な計測上、〈長大〉と呼ぶにやぶさかではない20年以上の時を刻もうとしている)完全な定着をみた価値観は、後ろ向きに反極に達し、包含し、完成する。

 北米ブラックミュージック界における就業ビザである攻撃的なリアルセクシャリティと、北米ホワイト・トラッシュ界でのセレブリティ認定証であるジャパニメーション的なバーチャルセクシャリティという、エキゾチズムの両刃の剣を恐れることなく振り回すことで(彼女はビルボードのダンスチャートでブレイクし、北米はオースチンにおけるアニメ・漫画のワールドイベント、USHICON LIVEで定着を迎えた)サクセスし、最早〈逆輸入〉という出自が信じられないほどの定着を見せている倖田來未は〈エロカワイイ〉という価値観の完成形、象徴として君臨することで、その反極である〈マジメ〉で〈普通の(共感性の高い)ルックス〉という現象との両義性を獲得した、驚くべき事にノン・アルコール、ノン・スモーキングの23歳である。

  〈アムラー〉という言葉を完全に死語にした〈倖田嬢〉というコピーを量産する彼女を取り巻く最新ニュースのプライマリーは「銀座に〈クラブ倖田〉を立ち上げ(一日ママ。という企画モノ)見事な和装と共に、銀座のママ業を立派に完遂」というもので、セカンダリーは「ライブで興奮した客を怒鳴りつける」というものだ。「自分で興奮させておいて(彼女はステージで、バックダンサー相手にフェラチオやアメリカン・ポルノのレズビアンを思わせる、極端に扇情的なムーブを繰り広げる)、御乱行に及んだ客はピシッと叱りつける銀座のママ」という存在の凛々しさと堅気ぶりには、叱られた〈そこのボーイズ(彼女の言葉による)〉たちも嬉し恥ずかし。といった所だろう。

 〈エロカワイイ〉という概念は、こうしてニュータイプではなく、プロトタイプかも知れず、むしろ浮上してくるものは、彼女の特異性だ。〈アメリカでブレイクし〉、〈日本でも成功した〉、〈エロくて〉、〈マジメな〉、〈普通のルックスで〉、〈凄くカワイイ〉彼女は〈扇情的に振る舞いながら〉、〈しかし暴れると(みんなに迷惑を掛けると)ぴしゃりと叱る〉、〈男性客を「ボーイズ」と呼ぶ〉、〈銀座のママ〉でもあり、好きな洋楽アーティストはクリスティーナ・アギレラ、ネリーである一方、好きな邦楽アーティストにはスキマスイッチ。〈言われて嬉しい言葉〉は「運転、男っぽいね」、〈許せないこと〉は「嘘とごまかし」。そして何ととどめには〈京都生まれの、尺八を教える父と琴を教える母の間に生まれた、幼少から日舞をたしなんできた子〉なのだ。

 この極端な両義性にして一義性の強度、つまり〈共感の持てる、頑張りやさんの、出目は良い子である、スター〉という事の意味は我が国(そして、我が国と最も近似した文化を持つ北米)では最強のもので、多くの少女達にとって、彼女の存在は神と友人の両義を兼ねたもっとも大切なものであり、多くのボーイズにとっては、どれだけカワイイかわからない俺のベイブである上に、たった一日だけ訪れた、数少ない金持ちのおじさま達にとっての飛び切りのママでさえあるのである。北米と日本を股に掛け、A-BOYにもB-BOYにもヒット出来るという唯一無二の特性を持つ彼女は、恐らくオバサマ達にも、老人達にも、幼稚園児にも、受け入れられ、可愛がられるだろう。

  こうした〈ギャルとして国民的(庶民的)になる〉というあり方は、我が国唯一の、純粋な音楽会社として上場しているエイベックス・エンタテインメントの理念の達成形と言えるだろう。直接の先人の一人である浜崎あゆみですら、庶民性/貴族性の打ち出し方において彼女に影響を受けている様に思える。ギャル文化は、〈エロカワイイ〉パワーによって国民のコンセンサスを獲得するに至った。彼女はそのアイコンなのだ。

 現在彼女は4枚のアルバム、18枚のシングル、4枚のDVDに続く、何と〈12週シングル連続発売(内、通常シングル3枚、枚数限定イレギュラー・シングル9枚)〉という、24時間テレビにおけるマラソンを思わせる、前人未踏の偉業に乗り出している。本作“You/Sweet Kiss”は、その第一作だが、プレスキットや公式サイトを見れば解るとおり、既に作品は12作とも完成しており、2006年倖田來未カレンダーもかくやといった、12枚がそれぞれ固有の国をイメージしたポスターも発表されている。ジャパンで始まり、インド、イタリア、アフリカ、チャイナなど、さながら万国旗コスプレである彼女は皆モード写真のように美しく(彼女は01年にクリスチャン・ディオールの屋外ボードモデルの仕事もしている)、前途は洋々であるかの如きだが(12ヶ国中、何故かイギリスだけが〈LONDON〉という表記になっており〈AMERICA〉と別個に〈ALASKA〉と〈HAWAII〉がある事が目を引くが、これはまあパンク・ファッション、トータル・ファーの衣装、ポリネシアン・ダンスのコスチュームを着ているので。という事だろう。〈LONDON〉は〈UK〉にして〈ALASKA〉は〈ICELAND〉、〈HAWAII〉は〈TAHITI〉か何かにすれば良かったのに。等というのは〈国民的〉である事の意味を取り違えた単なる都市的な正論である)果たしてこの企画は吉と出るか凶と出るか、こうした企画というのは最初が肝心であることは言うまでもない。

 果たしてプレスキットをよく見れば、彼女の陣営がクリスマス前からバレンタインデーを経て、卒業・就職シーズンまでを横断してしまおうという、野望のような誠実すぎるサーヴィスのような企てに向かっている事が解る(12/7~2/22まで毎週)。「うおー。クリスマス・ソングからか」と若干の興奮を抑えられぬままプレイボタンを押すと、聴こえてくるのは……

→ 倖田來未“You/Sweet Kiss”の〈チアー・タイム〉はこちら
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