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第44回 ─ アシッド・トラックス

連載
Discographic  
公開
2005/07/14   16:00
ソース
『bounce』 266号(2005/6/25)
テキスト
文/青木 正之、石田 靖博、リョウ 原田

シカゴの地で偶然生まれてしまった異形のダンス・ミュージックにして、世界中にテクノやハウスの遺伝子をばらまいた快楽主義的なグルーヴ ──その誕生からおよそ20年、何度となくリヴァイヴァルを繰り返してきたアシッド・ハウスが何度目かの旬を迎えている。数多くのクリエイターたちを魅了し、これからも影響を与え続けていくであろうウニウニでビキビキの世界は、一度ハマッたらもう中毒だ! DROP ACID, NOT BOMBS!! ACID IS BAAAAAAAACKKKKKK!!!!!!!

アシッド・ハウス、〈成人〉までの大河ドラマ

生みの親と育ての親

 初期シカゴ・ハウス・ミュージックに起きた突然変異。ベース・シンセ、TB-303の変態的なフレーズを反復した最初のアシッド・トラック=“Acid Tracks”の生みの親は、DJピエールとその仲間=フューチャーになります。では育ての親は? 答えは〈Musicbox〉ということになるのかもしれません。82年末、ハウスの故郷とされるシカゴのクラブ〈Warehouse〉は、フランキー・ナックルズに代わってロン・ハーディをレジデントDJに迎え、その名を〈Musicbox〉と改名します。彼はドラッギーかつラフ&タフなプレイ・スタイルでディスコ・トラックのみならずさまざまな音楽(過剰な反復を施したディスコ・エディット、ESGやアンネ・クラークのようなニューウェイヴ、クライン&MBOなどのユーロ・ディスコ……)をプレイし、それに加えて地元の無名連中が作ったデモテープも盛んにプレイしたため、〈Musicbox〉には彼のDJや地元ラジオ局WBMXのミックスショウに刺激を受けたキッズによるデモ・トラックが頻繁に届けられ、そのたびにテスト・プレイされるようになりました。こうしたプロセスを経て、アドニス、マーシャル・ジェファーソンらによる初期トラックス作品の数々がリリースされていきます。なかでも熱狂と共に受け入れられたのが85年末の“Acid Tracks”。シカゴのジャンキーDJとクラウドたちを育ての親に持った変態ハウスは、すぐに大西洋を横断していきます。

マッドチェスター~レイヴへの発展

 82年にファクトリー・レコードの周辺人脈が関わってオープンしたマンチェスター・ムーヴメントの聖地〈ハシエンダ〉。このクラブでは、86年頃になるとDJのプレイ・リストがディスコ・クラシックからシカゴ~デトロイトのハウス音源に塗り替えられはじめ、87~88年にはガイ・コールド・ジェラルド、D・モブ、ベイビー・フォードらによる英国産のアシッド・トラックが続々と登場、プレイされるようになりました。UKにおけるアシッド・ハウスは、エクスタシーと黄色いスマイル・マークを目印に大流行。その勢いは、BBCが〈Acid〉という言葉を使った楽曲を軒並み放送禁止にするほどでした。同時期には〈ハシエンダ〉でローラン・ガルニエがDJを開始、808ステイトはニュー・オーダーの“Blue Monday”をリミックス、サイキックTVがシカゴ詣でを経てアシッド化、さらにはプライマル・スクリームがアシッド・ハウスに傾倒していく(91年にその集大成的な『Screamadelica』をリリース)など、〈少年期〉を迎えたアシッドはモテモテで、レイヴ・パーティーとともに巨大化します。やがて騒ぎは落ち着きをみせますが、その種はドイツ、オランダ、日本などへ……。

グローバル化と度重なるリヴァイヴァル

 ドイツでは89年にベルリンの壁が崩壊して以降、90年代中盤に向けて東西各都市からテクノ・ムーヴメントが広まり始めます。94年、デュッセルドルフ出身の2人組、シカゴ産アシッドの影響を受けたハードフロアが3台のTB-303を駆使したアルバム『TB Resuscitation』をリリース。これと前後して、90年代中期には各都市のアシッド・フォロワーから作品が登場して一大リヴァイヴァルが起こります。フィラデルフィアよりジョシュ・ウィンク、カナダのウィンザーからはリッチー・ホウティン、アシッドのお膝元=シカゴからはロバート・アルマーニ、ミネアポリスからはティム・テイラー、東京からはススム・ヨコタなどなど。硬質なテクノと共に浮上したリヴァイヴァル……思春期のアシッド・ハウスは、やがてミニマル・テクノなどの台頭を受けて静かに収束していきました。

 が、アシッド・ハウスもそろそろ成人を控えた2000年代の半ば、四方八方に細分化するジャンル――クリック・ハウス、エレクトロクラッシュなどの渦からアシッド回帰の動きが勃興してきました。エイビー・デューク、ジャスパー・ダールバック、スワッグ、フリークスなどが登場してきたほか、前述のハードフロアやジョシュ・ウィンクらヴェテラン勢もまさかのアシッド回帰で大復活! その他にもいる往年の名手たちも倉庫からTB-303を引っ張り出しているとかいないとか。ともかく、いままたフレッシュなハタチの変態ダンス音楽、これを機にご堪能されては? ACIIIIIIIIIID!!!!!!!(リョウ 原田)


▼プレ・アシッド期の混合物。