新しい音楽が生まれる瞬間。そこには既存のカテゴリーをブチ壊し、未踏のエリアへと踏み込む破壊者たちの姿があった。そんな彼らの挑戦とエクストリームな音楽を紹介するデストロイヤー列伝!!
〈UKダブ〉の背景と異端児レーベル、ON-Uの魅力に迫るトークァセッション
既存のカテゴリーを破壊し、われわれに斬新なスタイルの音楽と新しい価値観を提示した冒険家たちを讃えるこの連載も今回が2回目。〈UKダブ〉をテーマにした今回のトークバトルは、池田氏がON-Uの缶バッチを見せつけるというカウンターからスタートした。
池田義昭(以下:IKE)「とにかくこのロゴからして最高! なんかワルっぽい感じとかさ」
──まあまあ、ON-Uのお話はのちほどたっぷりと。まずは〈UKダブ〉が生まれた背景について訊かせてください。
大石 始(以下:OISHI)「40年代ごろ、UKは移民を積極的に受け入れていてカリブ地域からたくさんの人々が移住してきた。で、彼らの子供たちにあたる世代が70年代中盤ごろに始めたのが、マトゥンビやスティール・パルスなどルーツ・レゲエ然としたバンド。そして、70年代後半から80年代初頭あたりに〈UKダブ〉といわれる独自のスタイルが広く注目されるようになったんだ。エイドリアン・シャーウッド(写真右)がカリブ・ジェムズっていう最初のレーベルを立ち上げたのも75年ぐらいのことだし、その数年後にはマッド・プロフェッサー(写真左)のアリワも生まれてる」
IKE「でもジャマイカのダブと比べると、サウンド的に〈硬質〉な感じがするよね。アスワドの『A New Chapter Of Dub』とかさ」
──それはセンスですか? 機材じゃなくって?
OISHI「UKって、ジャマイカに比べて寒いから。それに経済的に貧しいし、気候や食べ物も違う。そんな厳しさから生まれた音楽だから、リリックは凄く政治的なことを言ってる。それでサウンドはもの凄く〈硬質〉。ジャー・シャカがどこかで言ってたのは、〈俺たち、その土地に合った音楽をやってるんだ〉って」
IKE「あとは人種だろうね。決してジャマイカからON-Uが生まれてくるとは思えない」
OISHI「さっき言ったエイドリアンのカリブ・ジェムズでいえば、16、7歳ぐらいの白人の彼がカリブやジャマイカの移民とコネクトしていたわけよ。やっぱUKっぽいよね」
IKE「ブリストルのワイルド・バンチ(写真)のゴチャ混ぜ感とかもそうだよね。やっぱり環境による影響はデカイと思う。あとは社会的抑圧? 2トーンやドラムンベースの発生も社会的なヒエラルキーから逃れたいというのが理由の一部にあるわけだし。もともとレベル・ミュージックが生まれやすい土壌であったことは確か」
OISHI「さっきのエイドリアンもそうだけど、それぞれの境遇を共通点にして人種を越えたユナイトがしやすい環境なんだろうね。いや、ユナイトせざるを得ないというか……。そんな伝統とパンク・ムーヴメントが〈UKダブ〉の台頭を後押ししたんだと思う」
──そんな〈UKダブ〉の歴史のなかでも、ON-Uは特別な存在なのでしょうか?
OISHI「エイドリアンをパイプ役にして、アリ・アップやマーク・スチュワートら白人がドドッと入ってきたことを考えれば、ちょっと普通じゃないよね」
IKE「パブリック・イメージ・リミテッド『Metal Box』も重要。レゲエじゃないところからダブっぽいことをやってたからね。タックヘッドやゲイリー・クレイルもいるから、ON-Uもレゲエとは言い切れない。ダブを共通項にしたいろんなバンドの集団ってところ? 僕の場合、ON-Uというレーベルを一つのカテゴリーとして捉えているんだ。〈収まりよくないのがON-Uの魅力だ!〉みたいなね(笑)」
──確かにバラバラですよね。ダメなバンドはどうしようもなくダメだし。
IKE「ラフなんだろうなぁ~って(笑)。けれど〈ON-Uのサウンド〉で括られている、というか……」
OISHI「ニュー・エイジ・ステッパーズでもクリエイション・レベルでも、どっちから出てもいいような曲って多いからなぁ。バンド・メンバーもカブっているし」
IKE「あらゆる部分でハミ出しているから、逆にいろんな売り場に置いてもらえそうな作品(笑)」
OISHI「レゲエ・ファンが同時代のレゲエに求めている部分──もっさり感、ゲットーっぽさ、ふくよかな感じ──が削ぎ落とされていて、そういうリスナーには賛否両論なんだよね。それじゃなくても、世界中の人々がON-Uは変わった音楽だと思っているはず」
IKE「でもそのハミ出したところも含め、ON-U自体が偉大な発明!」
──そもそもON-Uにはコンセプトってあるんでしょうか?
OISHI「エイドリアンが自分たちの活動について〈ノイズ・テロリズム〉と言ってたよ(笑)」
IKE「確かに彼らの周囲には凄い言葉がたくさんある。〈マフィア〉〈シンジケート〉……スゲーなーって(笑)」
OISHI「〈アフリカン・ヘッド・チャージ〉って……おかしいっすよね(笑)」
IKE「ON-Uから〈ビート・スナイパー〉なんてバンドが登場してこないかなぁ~」
OISHI「ムチャクチャだってば!!(笑)」
スティール・パルスの78年作『Handsworth Revolution(Island)