キラびやかなホーンに軽快なメロディー……ゴージャスなビッグバンド・ジャズの世界へご招待。
みなさん、こんにちは。〈貝がらラジオ〉のお時間です。お相手は私、鈴木惣一朗。第2貝は〈ビッグバンド・ジャズの愉しみ〉と題してお送りします。今回は時間を延長して、素敵なゲストもお呼びしていますのでそちらもお楽しみに!
さて、ビッグバンド・ジャズ。昔は日本でもTVのチャンネルをひねると歌手の後ろには必ずビッグバンドの姿がありました。スマイリー小原さんとかダン池田さんとか。ダンさんなんて〈夜のヒットスタジオ〉の顔でしたからね。数年前、高田馬場の橋の上ですれ違いましたけど(笑)。でも、自分たちで楽器を演奏するロック・バンドがお茶の間に進出すると、だんだんビッグバンドの影は薄くなっていきます。その間の時期っていうのがおもしろくて、アーティストが演奏している間、やることのないビッグバンドのメンバーは、とりあえず手拍子叩いたりしてたんですよね(笑)。いまじゃ、のど自慢番組くらいでしか見られなくなりましたが、ビッグバンドはとてもリッチなものをわれわれに届けてくれていたような気がします。で、そもそものビッグバンド・ジャズというところに話を戻すと、デューク・エリントン、カウント・ベイシーなどといった大御所たちが有名。では、まずそのなかから、デューク・エリントンによる極めつけのモンド盤〈極東組曲〉を聴いてください──♪

このエリントンって人はジャズの可能性を拡げ、その歴史を大きく変えた人で、彼がいなければギル・エヴァンスとか、マイルス・デイヴィスのクール・ジャズの流れもなかったんじゃないでしょうか。とにかくエリントンから何かが変わっていった。で、エリントンと並んで有名なのがカウント・ベイシー。僕は彼を最初敬遠してたところがあって。でもあるナンバーを聴いてから、彼に対する見方が変わったんです。では僕がコンパイルしたコンピ『JUMP FOR JOY -MOND SOUNDS FOR RELAXIN'』から、その曲“Did You Ever See Jackie Robinsons Hit That Ball”をどうぞ──♪
こうした音楽が生まれたのは1940年代前後。最初は〈ジャンプ〉〈ジャイヴ〉〈ブギウギ〉などいろんな呼び方で呼ばれて、当時は黒人の伝統的な変わったダンス音楽として受け止められていました。アメリカがとても貧しかったころのお話で、人種差別もあって、黒人にとって歌って踊ることが楽しみというか、生きている証だったんですね。みんなが狂ったように踊っていた、そんな時代を〈スウィング・エイジ〉なんてふうに呼んでいます。やがて〈スウィング〉は白人の手に渡り、より洗練されて〈ジャズ〉という名前のもとに、グレン・ミラーやベニー・グッドマンといった白人ミュージシャンによってお茶の間へと届けれられることになります。そういった大きな流れのなかで重要な働きをしたのがエリントンであり、またベーシストのチャーリー・ミンガスでした。では彼の『Let My Children Hear Music』から“A-dagio Ma Non Troppo”をお聴きください──♪
僕が高校生の時、ジョニ・ミッチェルの『Mingus』というアルバムを聴いたんですが、そこで〈ミンガスって誰?〉ってことになったんです。ジョニ・ミッチェルっていう大変な人が、アルバムを捧げているくらいだから、よほどの人に違いない。そう思ってありがたがって聴いたらさっぱりわかんなかった(笑)。でも、ジョニはミンガスに接近することで、その個性を開花させたのは確かで、ジャズはミュージシャンのカルマを開放させる力があると思うんです。ミンガス自身もそれを知っていて、ジャズというフォーマットで、なにか新しいことをやろうとしていたんですね。そうかと思えばボサノヴァの世界でも、ビッグバンド・ジャズを使って新しいことをやろうとしていたゲイリー・マクファーランドなんて人もいます。では彼が〈ジャズ界の里見浩太郎〉(笑)こと、スタン・ゲッツと共演したアルバム『Big Band Bossa Nova』から、“One Note Samba”をお聴きください──♪
さて、このアルバム、洗練されてはいるんですが、正直いって聴きづらい(笑)! ゲイリーは、ソフト・ロック・ファンには『Butterscotch Rum』というアルバムでもお馴染みですが、彼はドラッグ中毒者でありつつもアタマのなかがトランスしていた人なんです。でも、バート・バカラックと同じでシュガーにトランスしてて、ぜんざいに蜂蜜とアイスクリームが混ざった感じ(笑)? 甘いテイストがぐちゃぐちゃに混ざり合ってる。だから味としてはキツイ時もあるわけで、このアルバムなんかそうですよね。でも、ビッグバンド・ジャズとは何たるかを知るうえで、シゴキで聴いといたほうがいいアルバムです。でも、これしきで屈していてはいけないっ! まさにビッグバンド・ジャズの真髄というべきサン・ラーという人が控えているんですねー。では彼の復刻されたばかりのアルバム『Nuclear War』からタイトル曲をどうぞ──♪
ヤン富田さんや、フェラ・クティなど、サン・ラー信仰者は多いと思うんです。彼は音楽家がおののくような才能を持っている人で、最近ではヨ・ラ・テンゴがカヴァーしていました。とにかくサン・ラーの世界は海みたいなもので、いったん浸かっちゃうと、すべてが毛穴を通して体に染みわたってくる。はっきりいってキツイところもあるんだけど、ときおり甘いメロディーを救いの手のように与えてくれるので我慢できるというか。いわば〈飴とムチ・オーケストラ〉(笑)ですね。
とにかくビッグバンド・ジャズのおもしろさはその構築美にあるんじゃないでしょうか。最近ではストリートの音楽でもブラスを採り入れたりして、ビッグバンドの要素を持ったサウンドをよく耳にします。ナウ&ゼンが結びついてきてるんですね、きっと。で、そんな流れのなかで、ビッグバンド・ジャズを真っ正面に採り上げたのがマシュー・ハーバートというエレクトロニカ界の新鋭。まさにまさかの組み合わせですが、今回は彼をゲストに迎えて、いろんな話を訊いてきました。まだ御覧になってないみなさんは、こちらのページへジャンプ(フォー・ジョイ)!
鈴木惣一朗
主にWORLD STANDARDとして活動するかたわら、ノアルイズ・マーロン・タイツのメンバーとしても活躍、エレクトロニカからルーツ・ミュージックまで幅広い音楽性を持つ音楽家。身近な名盤を紹介した「ワールド・スタンダード・ポップ」など著作も手掛ける。最近リリースされたヴィクセル・ガーランドとの共作『Isle』に続き、5月には、ノアルイズ・マーロン・タイツの新作もリリース予定。早く聴きたい!!