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インタビュー

LONG REVIEW――LEGENDオブ伝説 a.k.a. サイプレス上野 『LEGENDオブFILE MIX』

 

サイプレス上野_J170

サイプレス上野が日本語ラップを浴びるように聴き倒して育った、生粋のキッズであることは広く知られるところだろう。と同時に、その過剰なまでの愛情の果てに、このジャンルに対してトラウマティックで捻じれた思いを抱いてしまった、言わば〈日本語ラップに呪われし者〉であることも作品&発言の端々から垣間見ることができたし、そこがまたラッパーとしての個性に転化していたと思う。そんな氏による〈日本語ラップのミックスCD〉が通り一遍のものになるはずもなく……ここでは定番の名曲をことごとくスルーし、共有されている日本語ラップ史にも背を向けたワン&オンリーなミックスが展開されている。特異と言えば特異。だが、埋もれがちな名曲を掘り起こし、繋ぎ合わせ、独自の文脈を作り上げているという意味において、これほど至極まっとうなDJミックスもそう見当たらない。これぞDJ、まさにLEGENDオブ伝説!

選曲の対象がファイルの音源ということも、氏が手腕を発揮するうえで功を奏したと思う。日本語ラップ黎明期をがっちり支えたこのレーベルには、現在も最前線で活躍する面々のごく初期の作品が残されている。多分にスキルが重視された90年代後半以降のシーンの物差しで測れば、これらの初期作は〈未熟〉と見なされただろうし、それゆえに聴き返される機会も少なかったはず。サ上はこの手つかずな領域にズッポリと手を突っ込み、2010年になんとも瑞々しく再生してみせた。そのワクワクするような手つきが〈日本語ラップ〉という言葉から浮かび上がる固定されたイメージを解きほぐすし、このワクワク感には未来へ通じているような手触りがある。

全編に渡ってサ上その人のパーソナリティーに直結する選曲&展開が待ち受けているのが凄いのだが、特にPSG~いとうせいこうの涙腺が緩む流れをA.K.I.のデス声が無に帰すエンディング――彼らのライヴそのものと言える悪意込みのエンターテイメントっぷりには大いに笑い、感動させられた。そしてA.K.I.が立ち去った後の吹きさらしの荒れ地にエクスクルーシヴ音源“BAY DREAM -課外授業-”のPUNPEEによるリミックスが流れ込む、その美しさたるや!

 

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2010年10月20日 17:59

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