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インタビュー

INTERVIEW(4)――バカだけどおもしろそう

 

バカだけどおもしろそう

 

――全体をミックスしていくうえで大事にしたことは?

「サウンドステッカー的なSEもないし、近所の女〈濡れおかきさん〉に喘ぎ声みたいのを言わせただけ。それも薄ーく入れるくらい。流れを止めずに〈あれ、曲変わってた〉みたいなミックスが好きなので、そういうものにしたかった」

――“自己嫌悪”(キミドリ)から“WONDER WHEEL”(サイプレス上野とロベルト吉野)はまさにそういう繋ぎのひとつかな。

「そこは何度もやり直しましたけど(笑)。〈まさか“自己嫌悪”と自分の曲でそれができるとは〉ってちょっとゾクゾクする感じで」

――さっき今回のミックスを聴かせた友達が反応してくれたって話があったけど、今回のミックスCDには上野くんの仲間内のクラシックを集めたっていう一面もあるのかも。

「そうですね、それは相当ある。RHYMESTERはマキシ・シングルの“真夜中の闘技場”を入れて、セカンド・アルバム『Egotopia』から入れてないあたりは特に俺たちの仲間のクラシックみたいな感じ。“口から出まかせ”とか入れればもっととっつきやすいけど、それはみんなやってるから」

――ありきたりなクラシックのミックスというより、Bサイド・クラシックを集めました的な。

「……に、なっちゃいましたね。そういうの作ってる奴がメジャーのミックスに文句言ったところで説得力がねえみたいな(笑)」

――でも逆にそういうものが多いからこそ、こういうのも必要って言い方もできるでしょ。自分が完全にすれっからしなせいか、オレもありきたりなクラシックのミックスにあまりありがたみ感じないし。

「それは完全にすれっからしですよ(笑)。でも、俺もいまさら“口から出まかせ”が入ってるようなミックスは聴きたくない。“自己嫌悪”と“白いヤミの中”にしてもキミドリのクラシック中のクラシックで、みんなだいたい好きな曲だけど、俺たちを通して日本語ラップ聴いてる若いお客さんはたぶんキミドリを聴いてないし」

――いわゆる日本語ラップ・シーン的にはそんなに光が当たらないしね。

「けど、オルタナな人たちの場所に一歩行ったらアンセムだし。そういうのもやっぱ伝えたかった」

――ミックスCDといえども、そこは上野くん自身の作品と繋がってる感覚があるよね。〈オールグッド何か〉的な。それこそA.K.I. PRODUCTIONS入ってることひとつにしても。

「ひどすぎるっていう(笑)。大晦日、みんながX JAPANに行ってXジャンプとかしてる時に、俺たちはA.K.I.聴いて、神社の横に座って〈Sex! Or Die!〉みたいな感じだったから(笑)。ここは飛ばす人が逆にいてほしい(笑)」

――いずれにせよ、どれもが上野くんとは関係深い、サイプレス上野を作り上げた曲たちだと。

「これが、ホントに俺を作ったたもの。くだらねえこと言ってる曲もあるけど、PAGERみたいなハードなのも好きだった。かつ、何でもかんでも〈いいよね〉じゃなくて、聴きながら、この人たちを超えるには何をしなきゃいけないんだみたいなことをみんなで話してた。聴きすぎてフォロワーっぽくなって、一時期キミドリっぽくなったり、PAGERっぽい時もあったり、ソウスク(SOUL SCREAM)が出てきたらDJがオーガニック路線に走っちゃったり、みんな呪われてんだなって思う(笑)」

――ちなみに、このミックスCDを作ったことで自分たちのアルバム作りにフィードバックするようなことってある?

「『ドリーム』の頃にあったのが〈おもしろい奴が出てきた〉みたいな空気だったとしたら、『WONDER WHEEL』では〈俺たちにもヒップホップ的な強度がありますよ〉っていうものが出来た。でも、ここに収録されてる曲は超ヒップホップ的なラインがありつつ、もっと自由に言いたいことをうまく言ってるし、おもしろいことやってるけど実はトゲがあったりもする。俺たちも『ドリーム』に戻るじゃないけど、そこは大事にしたいなって。自分の生い立ち的なラップは雨後のタケノコじゃないですか、いま。そこで、逆に俺たちでしかできない歌い方もあるし、いまの時代にはこういう感じが全然ねえと思う。いまはおちゃらけたこともみんな許す時代になったのに、誰もやってないんですよ。PSGとかすげえ思ったし、もう一個下の世代は自由でいいなと思うけど、俺たちはこの(ミックスCDに入ってる曲たちの)時代を知ってるからできることもやりたい。バカだけどおもしろそう、楽しそうなことやってんな、っていうのがいちばんいいすからね」

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掲載: 2010年10月20日 17:59

インタヴュー・文/一ノ木裕之