第五回『グルメ漫画道』
グルメ漫画といえば、やはり作画:ビッグ錠&原作:牛次郎、
不朽の名作「包丁人味平」でしょう。
連載当時、週間少年ジャンプで読んでいましたが、タラリと偶然垂れた汗が味の決め手となる潮汁の話はもちろん、やはり鼻田香作とのカレー対決編、その名も「ブラックカレー」は漫画史上に燦然と輝く話でしょう。
大阪、天王寺にある小学校に通っていた当時、ジャンプを読んで興奮し、、
そのカレー対決の異様な展開と、未知のブラックカレーなるものに興味津々、遂には親を説き伏せ、
黒いカレーは専門店に実際にあり、一口だけ食べたと語る奴まで現れました。
当時日本ではまだ珍しかったインドカレーだったと思います。
食べると癖になるこのカレー、ご存知の方は当然ご存知だと思いますが、
食後にふわふわと変な心地よい気分になり、幻覚を見る、
そう麻薬入りのカレーだったのです。
おおらかな時代の産物とはいえ、スパイスを嗅ぎ分けすぎた鼻田の最後など、危険な描写が一杯!
この後、ビッグ先生と牛先生、この作品のあと、フレッシュジャンプで一本包丁万太郎を連載しますが、
やはりグルメ漫画といえばこの味平でしょう。
かつてTVで人気だった(小山薫堂が手掛けた)「料理の鉄人」が「美味しんぼ」というより、
「包丁人味平」スタイルの対決だったのが印象深いですね。
もちろん個人的にも美味しんぼには大きな影響を受けてますが、
いにしえのグルメ漫画特集は次回へ持ち越しとして、今回は最新グルメ漫画を紹介します!
めしばな刑事タチバナ 坂戸佐兵衛/旅井とり
個人的には現在のところ、圧倒的年間ベスト1作品!!
B級グルメを語る(カタル)シス!美味しんぼの対極!
なさばな(情けない話)恋ばな(恋の話)でなく、
めしばな=めしの話!!
「おまえさん、むちゃうまいじゃないの」「食っぴくぞ!!」
掲載誌が漫画雑誌でなく、「アサヒ芸能」ということもあり、個人的にはノーマークだったところ、
意表を突く傑作が飛び出てきました。
これは歴史に残る名作です!
元エリートの立花刑事(デカ)がB級グルメについて、
“深すぎる分析” と “的確な批評精神” でめしを語りまくる話。
立ち食いそばから牛丼チェーン(インディー系含む)、
スタンドカレー、さらに袋入りインスタント麺まで語りつくします。
その名も「牛丼サミット」編では吉野家、すき家、松屋の3大メジャーに加え、
かつて存在したインディー系店舗の思い出を語る。
1巻2巻あわせてなんと都合7章も割いているのはそれだけ反響が大きかったことを想像させます。
袋入りインスタントラーメン編では「出前一丁」のしょうゆとみそで微妙に麺が違うというトリビアが登場、
ドンキで買えるじゃがいもを練り込んだ「カムジャ麺」は読後、即座に買いに走らされたほど。
「名代 富士そば」「小諸そば」「吉そば」でどんなメニューを支持するかの論争、
餃子の聖地=餃子の王将、マルちゃん袋入り生焼きそば、激安うなぎの名代宇奈とと、
ラーメン天下一品なども取り上げています。
立ち食いそばとはそもそも何か、牛丼とは何か、駅前カレーとは、
そんな哲学的命題の深みへ誘う危険な漫画。
ある意味、美味しんぼの真逆に位置する作品とも言えるでしょう。
孤独のグルメ、かっこいいスキヤキなど久住昌之さんのひとりごちる名言系も魅力がありますが、
本作は原作者の深すぎる“めしに対する愛情と深い造詣”のなせる技でグイグイ読ませます。
どんなめしが旨いか、タチバナ刑事と先輩で論争が展開されるのには
コミュニケーションツールとしてめしの話がどんだけ有効かと気付かされるとともにそこかしこに散りばめられた
“めしトリビア”に深い感動を覚えます。
関東では「焼き牛丼」が話題となっていますが、
今後取り上げられるネタが気になります?
アサヒ芸能がコンビニでこれまでと違って見えてくるくらい、
これからもますます目がはなせない作品です!!
めしばな刑事タチバナ 坂戸佐兵衛/旅井とり
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めしばな刑事 タチバナ 1 坂戸佐兵衛、 旅井とり
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めしばな刑事 タチバナ 2 坂戸佐兵衛、 旅井とり
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ネイチャージモン 寺門ジモン/刃森尊
本気で肉を喰らい!、本気でオオクワガタを探す!
これ読むと寺門ジモンさんが大好きになっちゃうぞ!!
ナイスネイチャーかバッドネイチャーか、読めばわかる。
そもそも楽屋での自主トレーニング・体の鍛え方が尋常じゃないことを水道橋博士が見いだし、
それを知ったダウンタウンファミリーの東野幸治(ひがしのり)が推薦、
TV番組「やりすぎコージー」で寺門ジモンを特集したのが “ネイチャー”流行語化の切っ掛け。
年間、焼き肉に150万円以上ものコストを費やし、焼き肉は戦いだ、とまで言い切るジモン。
肉系の話がほぼ中心だが、山編ではオオクワガタを探すため、仲間と深い山に何日もかけて、
あるいは年間単位でかけて苦闘、行脚する話、大きくわけてその2つの流れがある。
(一度、関西人には嬉しい、粉もん編もありましたが)
うまい肉を追い求めて、三重県松坂に出向き、なんと松坂牛の競りに参加できる資格を持つまで至った芸人、
というのは後にも先にもきっとジモンだけであろう。
最新刊6巻では本場アメリカにて最高のステーキを食す話など、過剰な愛、その言動、
あとがきにまで感動させられ思わず泣かされるくらいです。
タチバナ刑事と同様、実在する名店が登場するのですが、特に狩猟した獣肉を食わせるマタギの店、
その名も「またぎ」(西麻布)編は最高に面白いですよ!
個人的な見立てですが、たとえばTVに出てる姿がある種の営業職で、本業は映画監督、と思える芸人がいますが、
ジモンにとってのダチョウ倶楽部の一員としての姿と、
この作品で描かれるネイチャー追求の姿が表裏一体であると感じますね。
作画の刃森尊(はもり・たかし←こりゃヴァン・モリソンの当て字かな?いやジム・モリソンかも?)は破壊王ノリタカ!
格闘料理人ムサシ、霊長類最強伝説 ゴリ夫、人間凶器カツオ!で知られる漫画家。
どうりで食、クワガタとの戦いの描写が素晴らしい訳です。
6巻の表紙なんてステーキ喰らう、ロッキーみたいですよ。
男ってバカだと思うけど、そんな男が好きなんだよ、という方、
もちろんええ意味で、ぜひジモンワールドを体験してください。そして読後にきっとこう叫びたくなるでしょう!
「ナイスネイチャー!!」
ネイチャージモン
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食の軍師 泉昌之
「孤独のグルメ」原作で大ブレイクの原作:久住昌之そして、タッグを組む盟友、作画:和泉晴紀(泉晴紀から改名)
ふたりのコンビ名といえば「泉 昌之」!
なんとデビュー30周年。待望の新刊が出たんどすえ!
「かっこいいスキヤキ」(青林堂 ’83年)所収、当時衝撃的だった「夜行」は
駅弁をどのおかずから食べるか順序を悩みつつ、
そうそれしかない!という思いにさせるマジカルな作風のデビュー作でした。
その後、読み終えた文庫のページを食ってゆくエピソードがたまらない、「豪快さんだ!」、
細かいネタで笑いを取る “段取り強迫症の「ダンドリくん」、
フルメタルならぬ「ジジメタルジャケット」はおじいさん連中がバンドを組む話、
またコロコロでの「キッチョメン石神井先生」、
少し前にはダンドリくんの続編、「ダンドリくんBLACK」、
また音楽誌で連載したジジメタルジャケットの続編単行本もありました。
本作品はおかずを食する順序を三国志、兵法に基づいた体で、その戦略を描いたもの。
おでん屋で、蕎麦屋で、鰻屋で、寿司屋で、ホルモン屋で、行く先々で偶然出会ってしまう宿敵 / ライバル、
どこか力石徹似の男との “一方的な内心の戦い”・・・つまり考えすぎな感覚がツボにくるおかしさ、
「メシの食べ方」にわざわざ美学やスタイルを構築しようとしてしまう男性ならではのストイズムと自意識過剰、
バカみたいだけど、それもまた食の楽しみなんだよな、と気づかされます。
たとえば冒頭の1話目はおでん対決。ふと入った屋台のおでん屋で
何のネタをどんな順番でオーダーするかでライバル客を打ち負かし、
また自身も納得のネタを得心ゆく順序で食べるか、というようなもの。
仮想敵が現実の敵となり、配置により自軍を勝利に導くと。
まあこれはおでんに限らず、寿司屋ならよくある風景といえるかもですね。
男だけかも知れませんが。
あいついきなりトロから注文したよ、おい!なんて突っ込みしたくなる客や、
あるいは悩まず、瓶ビールとコハダ、なんて上着脱ぎながらオーダーする人に対して
通ぶってんじゃねえよ、と言いたくなる感じ。
昔、実際に見たエピソードですが、大阪の寿司屋にて、えんえん最初からハマチばかり食うおやじが居て、
他の客が笑いをこらえてる、ってのありましたが、
回転寿司でもどれから攻めるか、なんてのは内心、隣あわせ、あるいは向こうにはっきり見える客、
自分より川下にあたる客たちとの妙なかけひきってのはありますよね。
だいたいカバー袖に、
“食とは戦略なり 諸葛亮孔明、見参!”
なんて書いてありますからね。
誇大妄想狂もいいとこですよ(笑)
しかし久しぶりに泉昌之の単行本読めて嬉しかったな。
和泉先生は最近よくコンビニ漫画の作画でお名前を拝見しますが、復活です!!
そうそう、この特集に孤独のグルメ入れてなくて、ちょっと後悔してますが、
泉ファンなら「食の軍師」必読の漫画ですよ!
最後に・・・
よしながふみ「きのう何食べた?」ラズウェル細木「酒のほそ道」でなく、うなぎばかり食らう作品「う」、
「食の軍師」「孤独のグルメ」の久住昌之原作「花のズボラ飯」、そして祝映画化「極道めし」にもハマってます!
ちなみにグルメ漫画をいろいろ思い出すうち、調べてみたら、グルメ漫画では土山しげるですね。
これは先生単体で特集して良いくらいの作品数を誇ります。
最新刊は大食い甲子園、男麺、食アクター健、などなど、食と裏家業を描けば現代最高の作家です。
ちなみに先生はのちにUFO戦士ダイアポロンの名でアニメ化される元作品を描かれていて、
その時の原作が雁屋哲、という事実は記しておきたい豆知識です。
あと超有名作に設定が似てるけど、ちょっと違う?作品「味愛物語」「美味恋太郎」「グルメ探偵りょうじ」なんてのもありますね。
好きな作品なんです。ラーメン、寿司、中華のグルメ漫画多いですよね。
コンビニ漫画でまんだらけが初のプレミア価格をつけたと語られる北斗の拳+料理人物語「ドカコック」はご存知ですか?
原哲夫の元アシスタントによる作品というのも納得する大見栄を切るシーンと
有無をいわせぬ決め台詞(「ドカドリーム!」など)が最高にハマってます。
読めばなんかしら食べたくなる、いや描かれているものが今すぐ食べたくなる、
そんな抜群のシズル感は「極道めし」が素晴らしいですね。実写化されます!
続きは次回のグルメ漫画特集第2弾にてまた逢いましょう!