本書は『Please Please Me』から『Let It Be』までのアルバム11 枚のジャケット・デザインの「革新性」を20世紀デザイン史の中に位置付け、「デザインの歴史探偵」松田行正が検証する一冊。そもそもビートルズに関する本に面白くないものはない。したがって内容のレビューより先に本のデザインのレビュー。新書判の変型の大きさで、まるで弁当箱。写真を掲載するためか、丈夫な紙を使っているので、分厚くなってしまうが、細かく何冊かの薄い製本を束ねたもので、無理なく頁を広げられる工夫がされている。表紙にはA1判大のビートルズのアルバムをパロったジャケ・コレクション・ポスター(CD180点以上、書籍34 冊を掲載)も圧巻。「牛若丸」という出版元は、著者が主宰するミニ出版社であるが、たぶん手作り造本で大変だっただろう。本でしか味わえない造本の魅力が満載。分量・大きさ的に、税込3,960円は高い、と感じたが、本そのものもアートなっている書籍としても楽しめる一冊だ。
松田行正氏『RED ヒトラーのデザイン』(左右社 2017)『独裁者のデザイン』(平凡社 2019あるが、「With the Beatles」では、ヒトラーの大統領選挙ポスターや「Help!」ではニュルンベルク党大会の「光の大伽藍」が引用され検証の幅が広い。そして本題アルバムジャケット論。個々のアルバムにまつわる情報は既知のものだが、11枚のアルバムを時系列で見ていくと、その革新性の進化がわかる仕掛けだ。そして進化の到達点は「Abbey Road」。4人のメンバーが横断歩道を歩くそのアルバムジャケットは、「どこにでもある横断歩道を歩いているだけ」という日常の光景をアートに変えた。多くの模倣やパロディを生み出すことになった革新性。モダン・アートの言説では小難しい注釈とセットとするところだろうが、このアルバムにはタイトルもバンド名もない。「見ればわかるだろ!」。現在のバンクシーにもつながるストリートアートの走り?この本を手にしたとき、カバーがもう薄汚れていると思ったが、白の経年変化そのものをデザインに組み込んだ「White Album」のコンセプトの実例であったのだ。