ビョークはアルバムを出すごとに、大なり小なり、音やテーマを変化させていく。そのビョークが、通算10枚目となる記念的なアルバムの主題に選んだのは、「楽園(ユートピア)」。表題曲にある「原初の動物群(fauna)から聴こえてくる最初の横笛」に導かれるように、アルバム全体を通して牧神(faunaにはギリシャ神話のパーンに相当する、古代イタリア神話の女神ファウナの意味もある)が奏でる横笛を彷彿とさせる牧歌的な音世界が描かれている(このアルバムのために、女性12名編成のフルート・オーケストラが結成された)。ただ、そこはビョーク。空間を意識したエレクトロニクスが巧みに挿入され、エレクトロニカ時代の牧歌的な楽園像を描いている。ビョークの声は相変わらずの個性を保ち、12本のフルート(この編成だけでも特異だ)が時に変則的に入ってくるにも関わらず、この楽園像のおかげでかなり緩やかな作品に聞こえてくる。ただ、ジャケットの顔写真?が映画『ハンニバル』で自ら顔の皮膚をはいだ大富豪メイスン・ヴァージャーを彷彿とさせ、不気味だ。