先週お届けした総括座談会に続き、編集部が注目したアクトのステージングを詳細にレポートいたします!
8月7日(金)
14:40~
■GIRL TALK @ DANCE STAGE

(c)SUMMER SONIC 09 All Rights Reserved
〈マッシュ・アップ/バスタード・ポップ界の人気者〉というキャッチは後から知ったわけで……。何気なくフラッと入ってみると、いきなり爆音パーティー・サウンドが鳴り響き、ステージ前方にいた若いギャルとかを中心としたお客さんを次から次へとステージがいっぱいになるまで上げていく(ちなみに、ライヴの最後までギャルたちはステージで所狭しと踊り続けていました)。〈なんなんだ、コレは?〉と予備知識もまったくないまま迷い込んだその空間では、ブルース・スプリングスティーンやa-haやガンズ・アンド・ローゼズやマイケル・ジャクソンとかなんやかんやの有名曲の一部の音がサンプリングされて、次から次へと流れてくるから飽きずに楽しめるわけです。まあ、とにかく最初っから最後までひたすらバカ騒ぎ、大騒ぎでひたすら陽気に、アッパーに、アホになって楽しまなきゃソン、ソン!ってなノリで、アホみたいにジャンプして先導&アジテートしていた長髪のヒッピーみたいなオッサンがどうやらガール・トークさんなのでしょう――バカ騒ぎ&踊り狂うお客さんたちに紛れ込んでしまってましたが。マッシュアップ恐るべし、と思うと同時に、あんな楽しくて楽しくてしょうがないアホなパーティーを本気でやってるアメリカも恐るべし(あんなの近くでやってたら毎回参加したくなるよ~!)っていう印象的なパフォーマンスでした。*ジョビン
16:30~
■MERCURY REV @ SONIC STAGE

(c)SUMMER SONIC 09 All Rights Reserved
最新作『Snowflake Midnight』と同様、プログラミングとシンセを大幅に採り入れたアレンジで深遠なサイケデリック世界をよりシンフォニックに増幅してみせたこの日のマーキュリー・レヴ。スクリーンに投影されるスピリチュアルな映像と相まって、渦巻く轟音のなかに小宇宙を垣間見せるそのステージは〈最高!〉と叫ばずにはいられないものだったが、さらにロックオンされっぱなしだったのが、ヴォーカルのジョナサン・ドナヒュー(以下:J)によるとんでもなくシアトリカルなパフォーマンス。“Snowflake In A Hot World”では〈ドドドド・ドドドドドン!〉というドラムに合わせてエア鼓笛隊をキメるJ、“The Funny Bird”ではヨガのポーズをとる女性のシルエットから銀河系へと変化を遂げる映像を背景に、両手を上下させて鷹揚に羽ばたいてみせる(?)J、各所で見せ場を迎えたプレイヤー陣に歩み寄り、両手を振りかざしてはやたら力強く指揮する(もしくは気を送る?)J……。そんな数々のJの姿に最初は面食らったが、サウンドがとにかく劇的なため、劇的なアクションも仕方な……いや、感動を倍増させるから不思議だ。特に、ニコ“Evening Of Light”の荘厳なカヴァーから“The Dark Is Rising”“Senses On Fire”で迎えるフィナーレまでの昂揚感には鳥肌が立ちっぱなしで、Jが天に向かって両手を聖杯のように形作ってみせれば観客も両手を掲げ、Jが拳を突き上げればやはりフロアからも多くの拳が上がり、Jを中心に神秘的な一体感が生まれていた。今度は、もっと長いセットリストで観てみたい! *土田
18:15~
■JACK PENATE @ BEACH STAGE

もっさりしすぎの髪型とパジャマみたいにダブダブのロンT姿。なんとも垢抜けないルックスで登場したジャック・ペニャーテ。今回の〈サマソニ〉のベスト・アクトに挙げている人が多くいたように、このライヴは凄まじい内容だった。まず何より、ジャックのテンションが高すぎる! 勢いのあるファーストの楽曲ではもちろん、アダルトな匂いを感じさせるセカンドの曲でも踊りまくりのアゲまくり。マイクを片手に酔いどれ風のダンスをしたかと思えば、ピョンピョンと跳ねて客席まで降りてくる始末。時折挿入されるトロピカルなフレーズが、〈BEACH STAGE〉の雰囲気とも抜群にマッチして気持ちいいなーと思っていたら、突然、横殴りの豪雨が……。それでもジャックは演奏の手をまったく休めず、雨のせいでスピーカーが飛んでるのにまたもや客席に飛び降りてきてマイクも通さず歌いまくる。ラストはアーティストも観客も入り混じって下着までずぶ濡れの状態で、妙な連帯感が生まれていた。“Let's All Die”なんて曲を、悲壮感なくパンキッシュに演奏する彼の衝動がビーチ一帯に伝染した結果(?)でしょうか。ちなみに、〈BEACH STAGE〉はこのライヴ後、雨のために封鎖されてしまいました。*ヤング
19:50~
■SOULWAX @ DANCE STAGE

(c)SUMMER SONIC 09 All Rights Reserved
2メニーDJ'sの2人がいるバンド……ぐらいしか知らなかったんだけど、観て、体験してビックリ!! 薄いグレーのタキシードと蝶ネクタイに身を包んだ4人が、ドラムを叩いたりベース弾いたり、あとは立ったまんまシンセとかシーケンサーに向かいながら4つ打ちのリズムに縦ノリで身体を動かしつつ淡々とクールに演奏し続けてるんだけど、そこから出てる音のひとつひとつがもう〈カッコいい!〉としか言いようのない、スタイリッシュでファッショナブルで粋でオシャレな音なわけで、思わず何度も〈カッコいい~〉と口に出してしまうんだが、周りで踊ってた人たちもみんな〈カッコいい~〉と連呼していたんで、きっと誰が聴いてもそう感じる音なわけでしょう。個人的には、エレクトロとロックの狭間だったり、ルックスも含めたそのスタイリッシュさだったり、1人多いけどステージでの見栄えだったりでYMOに近いものも感じていた。2日後に近くのフェスで最新YMOのライヴも観たんだけど、やっぱりその時も〈なんか似ているなあ~〉という印象を持ちました。安易にアッパーになりすぎずクールなんだけど身体が動いてしまう躍動感と、耳を奪われる奥の深いサウンド構築といった絶妙なセンスが〈別格〉感を漂わせていて、こりゃすごいバンドだ!と嬉しい驚きを受けました。*ジョビン
20:55~
■APHEX TWIN @ SONIC STAGE

〈ワタシハニンゲンヨリハルカニスグレタキカイダ……(以下、人類を支配するといった警告的なメッセージが続く)〉――4つのモニターに英語と日本語で次々と投影される文字列を、メカニックな声が淀みなく読み上げていく。怒号が上がって初めて気付いたのだが、ステージ上にはいつの間にかリチャードが。高めの台の上に機材が設置されていて、手元がまったく見えなかったためライヴ/DJセットのどちらだったのか判然としないが、パフォーマンスは(たしか)AFX“Phonatacid”からスタート。808ステイトや多名義を使い分ける自身の楽曲の合間にヒップホップ~アンビエント~エレクトロなトラックを挿入しながら観客を次々と揺らしていく。中盤で飛び出したエイフェックス・ツイン“Window Licker”や、コースティック・ウィンドウ“Cordialatron”(たぶん)+マイケル・ジャクソン“Rock With You”では特に大きな歓声が上がる。ビートに合わせて写真から飛び出た人(アノ表情の本人も含む)が歪んだり、すり潰されたりするような映像は露悪的ではあるが、意外と普通に踊れるサウンドだな……と思いきや、一転して後半はアッパーなドリルンベースの応酬で、悪意を滲ませた彼特有の美学が全開に。加速度的に上がっていくBPMと呼応して高まる緊張感。VJも、山羊の屠殺現場から解剖後に傷口を無造作に縫い合わされた人間の死体へとグロテスクにエスカレートし、タオルを口元にあてて外へ向かう女子がちらほらと出現。狂乱の音と映像に呆然と立ち尽くす人、完全にぶっ飛んで踊り狂う人と反応はそれぞれながら、空気を震わせる勢いで爆発し続ける嬌声が、〈SONIC STAGE〉がいま、絶頂を迎えたことを伝えている。暴力的にいたぶるようなリズムの乱打に翻弄され、色彩のスクラップと化した映像に魅入られ、ある種病的な昂揚感に憑り付かれているうちに、ノイジーなブリープ音がエマージェンシーに鳴り響き……やっぱりいつの間にか、リチャードは姿を消していた。凄まじいトランス感に戦慄を覚えつつも、終わらない賛辞の声と共にしばらくその場から動けずにいた筆者であった。*土田
22:50~
■ゆらゆら帝国 @ SONIC STAGE

やっぱいつ観てもすごい! 最近のライヴではヴォーカル&ギターの坂本慎太郎がギターを弾かずにマラカスを手にし、ほぼドラム&ベースの音のみで歌う姿が見られたが、この日は全曲ギター入り。モッシュが起こるような速い曲はやらず、“3×3×3”に代表されるじわじわ〈くる〉選曲がメインだった。そのせいか、なんだかレパートリーを淡々と演奏しているようにも見えたのだが、ステレオタイプなロックの衝動を受け止めたうえで、過剰なことをせず〈普通〉に異空間を作り上げる彼らの凄みを見せ付けられたような気がした。“学校へ行ってきます”の異様な語り部分など、深夜のシチュエーションと相まって寒気がするほど。ラストに演奏された“無い”のホワイト・ノイズは、観客全員を音楽で洗脳しているかのようにすら見えた。新作が出ていないのにセットを変え、新しい形態を見せてくれるゆらゆら帝国に、誰もが圧倒されていたはず。*ヤング
25:50~
■THA BLUE HERB @ SONIC STAGE

ゆっくりと、静かな歩調でステージ中央に進んだILL-BOSSTINOは、まるで儀式のような所作でペットボトルを後方に置くと、フロアに向かって「よくここまで残ったね。君たちの、その忍耐力と精神力にリスペクトを捧げます」と一言。BOSS的としか言いようのないその語り口が、この場に集ったひとりひとりの心をいきなり掴み、沸き立たせる。そして彼が腕を大きく振りかぶり、振り下ろすと同時に“Phase3”が鳴り渡った。DJ DYEの操るファット極まりないビートがみぞおちを深く揺さぶり、BOSSの発する一言一句がクサビのように頭に刻まれる。ステージを彩る装飾の類は一切なし。1MC&1DJだけの50分一本勝負は、過剰にストイックでありながら、過剰にドラマティックな物語を紡ぎ上げていく。切磋琢磨の日々を綴った“AMENIMOMAKEZ”、EGO-WRAPPIN'からZZ PRODUCTION(!)まで、同時代に生きるアーティストへの敬意を表明する“Rasing bull”……後半に進むにつれてビートからも解き放たれ、溢れんばかりのロマンティシズムに会場をどっぷり沈めた彼らがラストに繰り出したのは、なんと〈FUJI ROCK '00〉にて伝説化した名曲“Ill-beatnik”! 壮大なピアノの旋律とシンクロしながら、遠く冥王星に向けて言葉を投げかけるBOSSを、オーディエンスはもはや微動だにせず見守る。すべてを出し切ったBOSSが最後に「ありがとうございました」と力強く告げた瞬間、静寂に包まれていた会場からは割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。*澤田
3:10~
■Y.SUNAHARA @ SONIC STAGE


(c)SUMMER SONIC 09 All Rights Reserved
時刻は午前3時過ぎ。しかし、久々に動きはじめたエレクトロニック・マエストロを見届けるべく、〈SONIC STAGE〉には多くのオーディエンスが集結している。ステージにはシンプルな機材ブースが2つ、左右対称に配されており、まったくもってクラフトワークなその佇まいが実にまりんらしい。やがてハイファイな電子音がゆっくりと立ち上がり、場内を包み込んだところで砂原とサポートの久川大志(ARM)が登場。“earth beat”のソリッドなビートと共にライヴは幕を開けた。後方に映し出された映像とシンクロしながら進むこの日のセットは、2001年のマスターピース『LOVEBEAT』の楽曲が中心となっており、時にエフェクトやダブワイズがかけられるものの、CDで聴ける音と大きな違いがあるわけではない。だが、余分な要素を徹底的に削っていく彼のサウンド・デザインにおいて、もはや〈変化〉なんて必要ないのかも。丹念に磨き込まれた一音一音は、なんら古びることのないフレッシュネスを湛えて会場に轟き続けた。後半では80年代のハービー・ハンコックを思わせる“CRIPPER'S DISCOTIQUE BREAK”なども披露してファンクの熱気を吹き込んだが、ラストはアンビエントさながらの“the center of gravity”。そのたおやかなシンセの波で会場を包み込み、2人は静かにステージを後にした。*澤田
▼文中に登場したアーティストの作品を紹介