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第18回 ─ ブレイク前夜の集大成~RIP SLYME『Talkin' Cheap』

第18回 ─ ブレイク前夜の集大成~RIP SLYME『Talkin' Cheap』(3)

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2009/07/22   17:00
更新
2009/07/22   18:54
テキスト
文/東京ブロンクス


今月のスナップ:ゴーグルは工務店で購入。業務用って最高!!

ブロンクス RIPは昔からブラック・シープなはぐれ者的スタンスを持ってたよね。みんなが一番ハードコアに向かってたときに、学校ネタの曲とかが入った『Lip's Rhyme』でわざとチャラチャラしてみたり。みんながDragon Ashを批判している時期に、敢えてDragon Ashと組んだり。あまりにも飄々と進んで行くから、突っ込む気もなくなっちゃう。

上野 でも、RIPはポップなところに行っても、上手く波を乗りこなしていくんですよね。TMC ALLSTARSに参加したときも、RIPは渋かった。ちゃんとわきまえてやってる感じがあった。

ブロンクス そうだね。TMC ALLSTARSだと、Q君(ラッパ我リヤ)なんかは、ちょっと浮かれて地に足がついてないように見えたけど(笑)。

上野 でも、この間の〈湘南音祭〉でDragon Ashとラッパ我リヤが“Deep Impact”をやったときは、結構上がりましたよ。ステージ裏に行ったらQさんがいたんですけど、何かブツブツつぶやいてるんですよ。よく聴いてみたら“Deep Impact”のリリックを練習していた(笑)。

ブロンクス (笑)。でもさ、『Talkin' Cheap』がリリースされた98年の時点では、RIPよりラッパ我リヤの方が売れてたんじゃないの。

上野 そう思いますよ。だってラッパ我リヤが同時期に出した『SUPER HARD』って、本当にみんな持ってましたからね。俺なんて、家族旅行のクルマのなかですら聴いてましたもん(笑)。

ブロンクス だけど、結果的に『SUPER HARD』よりも『Talkin' Cheap』を長く聴くことになるとは思ってなかったね。「良いアルバムだな」とは思ってたけど。……この辺で『Talkin' Cheap』の中身について語ろうか。

上野 このアルバムでは、MC PEACHっていう9歳の女の子にラップさせてるんですよね。しかも、これがまた結構なハード・ライミングで。

ブロンクス そうそう。ハードなリリックの後に小芝居までさせて。『Talkin' Cheap』はそういう演出も含めて、トータル・アルバムとして素晴らしいよね。RYO-Z君の“Zeek”を除けば……。

上野 (笑)。そう言えば、MC PEACHはその後、倉沢桃子って女優になって、〈3年B組金八先生〉にも出てたの知ってます? 目立つ感じじゃないんだけど、可愛いんですよ。〈金八〉の撮影現場まで出向いて「ここがMC PEACHのいた場所か……」って。

ブロンクス そのチェックはとんでもないな(笑)。

上野 その後、武田鉄矢の〈教習所物語〉ってドラマでメインに抜擢されるんですけど、女優は残念ながら辞めちゃって。いまは一人で弾き語り的な音楽活動をやってる。いまだにブログとスケジュールはチェックしてますよ!

ブロンクス 〈教習所物語〉ってあったね!〈刑事物語〉は見てたけど。じゃあ、「いつでもフィーチャリングを待ってるぜ」ってここで言っておこう(笑)。

上野 無駄に濃いMC PEACH情報(笑)。『Talkin' Cheap』に話を戻すと……“風に吹かれて”ではATOOSHYをフィーチャーしている。

ブロンクス この人選は相当渋いよね。NANJAMANとかPAPA Bみたいな90年代のダンスホール・スタイルをちゃんと継承してるレゲエDJのなかで、当時若手で一番カッコ良かったのは東京ならATOOSHYだった。当時、俺らの周りのスラングとして、〈アツい〉って意味で〈アトゥーシャイ〉って言ってたよ。結構流行って、韻踏(合組合)とかも大阪で使ってたはず。

上野 ですよねえ。「ATOOSHYを呼ぶかあ!」と思ったもん。でまた、曲もカッコ良いもんな。

ブロンクス 『Talkin' Cheap』は、ビートがヒップホップ・オリエンテッドなんだよね。FUMIYA君が、2ステップとか、ヒップホップ以外のダンス・ミュージックに手を出す前のアルバム。これ以降はビートのノリが変わって行くから。

上野 RIPが思いっきりヒップホップだった時代の集大成かもしれないですね。ブックレットのアートワークも超ヒップホップ・スタイル。この連載でも何度か出てくる魚眼レンズ撮影とか(笑)。

ブロンクス 典型的な集団MCのヴィジュアルだよね。魚眼レンズ、ティンバのブーツにベスト、パーマをかけた頭っていう。こういうグループは絶対に元ダンサーでファーサイド好きだ!と言い切ってみよう。

上野 RIPはみんな、もともとダンサーですもんね。

ブロンクス RIPはダンサーだから、PVでも画面映えしたよね。動き回るから退屈しない。

上野 ダンスかあ。俺も一時期、地元のドリーム銀座でブレイクダンスを練習してましたけどね。あと、町田のハンズっていうダンス・チームに「ブレイクを覚えろ」とか言われて、いっしょに踊ったりもしてましたけど。

ブロンクス 俺はダンスだけは手を出さなかったな。後輩はよく西新宿のビルの前で踊ってたけど。上ちょはRIPと一緒になったことはなかったの?

上野 ライヴを見に行ったりはしてましたけどね。横浜にFIREってナンパ系のハコがあって、台風直撃の日にRIPが来たことがあって。地元のドリームの面子全員で行ったんですけど、ずぶ濡れの俺らを温かく迎えてくれた(笑)。あとGWASHI*5のアルバムに参加してて、そのリリース・パーティーに行ったときに話しかけたり。
*5 KitsuKid's-O.T.B、AQUILA-EXTRA、DJ SUGIYAMANの3人組グループ。GAS BOYSの弟分的な存在だった。

ブロンクス RIPは話しかけたときの対応がすごくナイスだったよね。いまはどうか知らないけど。

上野 そうっすね~。

ブロンクス 何かこのアルバムって、メロディーとラップの割り合いが丁度良かったよね。メジャーでやってる人たちって、1回歌っちゃうとメロディーを減らすのって難しいんだろうなあって思うよね。つっても『TOKYO CLASSIC』にしたって、いまでも全然聴けるんだけどさ。

上野 あれだけ売れて、あれだけ良いアルバムってのは、やっぱすごいっすよね。アナログで買いましたよ。カラー・ヴィニールで。

ブロンクス ヒップホップなんて絶対かけないような店とか、どこ行ってもかかってたからね。

上野 『Talkin' Cheap』は、そういうブレイク前夜って感じのアルバムだけど、方向性はその後と比べても、そんなに変わってない気がしますよ。当時は大学でも、みんな『TOKYO CLASSIC』を聴いて「RIP、超良いよね」とか言っていて。そういう友達に俺が『Talkin' Cheap』を聴かせるんですけど、『TOKYO CLASSIC』から入った人からしても、別に違和感はないんですよね。むしろ、「『Talkin' Cheap』の方をよく聴いてる」って普通に言ったりする。それはやっぱり、RIPが自然体だからなんだろうなって。その都度、無理してない。

ブロンクス そうだね。あと、今回RIPを調べてみて思ったのは、俺らよりウィキペディアの方が断然詳しいってこと(笑)。

上野 それだけ一般的な知名度のあるグループなんすよね。「お前らが語るな!」って言う人もいるかもしれない。でも、RIPが売れたことでの嫌悪感は一切なかった。やっぱり、昔からそのまんまなんすよ。

ブロンクス B-BOYはみんな、そう思ってるんじゃないかな。決して嫌いじゃないし、文句を言うつもりもないでしょ。覆面プロジェクトでも良いから、さっき言ってたBEEFにアンサーを返せば良かったのにとか、最近、PESの肌の色が黒過ぎるんじゃないの?くらいで(笑)。

上野 (笑)。洋服商売に手を出しすぎて、普段着れない服を作るようになって欲しくない、みたいな。

ブロンクス そのシーズンだけ着れるものなんかより、俺らはずっと着れるタフなものが欲しいんだよね。

上野 そうそう。首元が伸びても、デザインがカッコ良いから着るような。

ブロンクス 少なくとも『Talkin' Cheap』は何回聴いても伸びないCDだから(笑)。

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