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第18回 ─ ブレイク前夜の集大成~RIP SLYME『Talkin' Cheap』

第18回 ─ ブレイク前夜の集大成~RIP SLYME『Talkin' Cheap』(2)

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2009/07/22   17:00
更新
2009/07/22   18:54
テキスト
文/東京ブロンクス

ブロンクス 『Talkin' Cheap』の後には、“UNDERLINE No.5 EP”が出るでしょ。これがすげえカッコ良かった。俺、2001年くらいの〈BLAST AWARD〉でTOKONA-Xと般若とオジロ(OZROSAURUS)とRIPは過小評価されてるって書いたんだけど、こういう人たちは、やっぱりシーンをリフレッシュするタイミングで出るべくして出てきてるんだよね。

上野 確かに。リミックス盤の“UNDERLINE No.5 REMIXIES”も、ブラジリアンなトラックとかが入ってて、センス良かった。

ブロンクス そして“STEPPER'S DELIGHT”でメジャー・デビュー。ここからみんなお揃いのツナギの衣装を着るようになったりして、プロジェクト色が強くなっていった。PUFFYの男版みたいな。

上野 まあでも、それも自然な流れに思えましたよ。それまでのRIPのイメージとの違和感はなかった。

ブロンクス そうなんだよね。俺はPESのラップがすごく好きだったな。“STEPPER'S DELIGHT”のヴァースとか超カッコ良い。

上野 当時、DEV LARGEさんが「FRONT」誌でRIPの“白日/真昼に見た夢”を褒めてたんですよ。「久々にヤバいものを聴いた」みたいな感じで。あれで風向きが一気に変わったところがあったんじゃないですかね。

ブロンクス そうだよね。DEV LARGEさんプロデュースの日本語ラップ・コンピ『MELLOW MADNESS』にも、“白日”が入ってるんだよ。「トラックがヤバい!」って。ラップには微妙に触れないのがあの人らしいんだけど(笑)。

上野 でも、RIPの場合はまず、集団MCの魅力ってのがデカかったですよね。

ブロンクス ニュースクールの集団MCの影響は強烈に感じるよね。RYO-Zのラップはリーダーズ・オブ・ニュー・スクール時代のバスタみたいだし。ファーサイド、ソウルズ・オブ・ミスチーフ、ワスカルズ、フリースタイル・フェローシップとか、集団MCっていっぱいいたじゃん。ただ、USのそういうグループって、2作目くらいから各メンバーの自己主張が出てきて、目立たないメンバーが抜けていって、結局3人組くらいのタイトだけど地味な存在になる……って傾向があるじゃん(笑)。でもRIPだけはずっと集団MCの醍醐味、みんなでザワザワ言ってる感じを保ってる。

上野 確かにねえ。MELLOW YELLOWとかも、1DJ & 2MCの超タイトなグループになったもんなあ。

ブロンクス ファーサイドのPVなんかだと、誰かがラップしてる後ろで、ほかのメンバーがクルクル回ってたりするでしょ。RIPはあの感じを継承してる。あと、このジャケの歪め方は、ブギーモンスターズのアートワークが元ネタだろうとか。ラップにしたって、当時のラッパ我リヤなんかと比べると、ちょっと甘く聴こえるんだけど、そのルーズなライムのスタイルや掛け合いも、向こうの集団MCものをものすごく参考にしてると思うんだ。

上野 実際はそういう風に、元ネタがいっぱいあったんすね。でも、そうやって築いたスタイルが自然すぎたから、全然気づかなかった。やっぱり、基本的に上手い人たちだから。

ブロンクス うん。俺が一番好きなのはPESで、次がRYO-Z。ILMARIのラップは苦手だったんだけど、この間の“TERIYAKI BEEF”*3に対してみんな沈黙してたのに、ILMARIはエビちゃんとの交際報道で返して来たでしょ(笑)。別にBEEFと関係ないし、エビちゃんも好きじゃなかったけど、あれはやられたね。笑っちゃった。
*3 TERIYAKI BOYZの“SERIOUS BOYZ”に対する、SEEDAとOKI(GEEK)のアンサー・ソング。

上野 群を抜いてヤバいアンサーでしたからね。ILMARI君にしかできない(笑)。

ブロンクス ILMARIは女性誌の〈恋人にしたい男ランキング〉みたいなやつで、福山雅治を超えたこともあったからね。『TOKYO CLASSIC』が100万枚近いセールスを記録していた時期で。SMAPを抑えてオリコン1位を獲得という(笑)。

上野 すごすぎますよね……。

ブロンクス 5万人ライヴもやってるし。だから、やっぱりRIPはBEP(ブラック・アイド・ピーズ)みたいな存在なんだと思うよ。

上野 当時好きだった女が“楽園ベイベー”が好きだって言うから、クルマのなかでずーっと掛けてて。だから、いまも完璧に覚えてるし、DJで掛けると、その頃の思い出がフラッシュバックしちゃって……。

ブロンクス “楽園ベイベー”も良い曲だからねえ。BEPのクソ暑苦しい曲より100倍良い。

上野 めっちゃ良い曲。いま聴いても色褪せてないし。RIPの出してくるポップめの曲は本当にカッコ良い。インディーズ時代の最後に出した“マタ逢ウ日マデ”なんかもすごく良かった。メジャーに行く前の最後っ屁みたいに勘ぐらせるリリックで。

ブロンクス そういう曲だったよね。

上野 あれ聴いて「マジでこの人たちは上手いな」って、つくづく思い知らされましたよ。ドリームラップス*4崩壊直前くらいの時期だったから、「俺たちのやりたかった掛け合いラップはここにあった……」って。
*4 サイプレス上野がかつて在籍していたラップ・グループ。